
ギリシャ(ギリシャ共和国)はヨーロッパの南東端に位置し、日本のおよそ3分の1の国土に1000万人余りが住む国である(2024年、国連推計)。首都アテネのある大陸部分だけでなく、たくさんの島がエーゲ海など地中海に点在している。紹介するまでもなくギリシャはギリシャ文明発祥の地で、アテネにあるアクロポリスをはじめ、国のあちこちに数多くの遺跡が残っている(写真A)。
A 古代ギリシャの中心、アクロポリス。今もアテネの町を見下ろしている。(アテネ)

しかしギリシャ文明の前に、エーゲ海にミノア文明という文明があったことはあまり知られていない。紀元前2000年から1600年ごろというから、今から4000年近くも昔の話だ。ミノア文明の遺跡といえばクノッソス宮殿。アテネの南およそ300km、ギリシャ最大の島クレタ島にある(写真B)。1979年、22歳の夏、その壁に描かれた青いイルカの絵を見たくて、アテネ近郊のピレウス港から夜行フェリーに乗った。その46年後、同じ航路で再び島を訪ねた(写真C)。
B アーサー・エヴァンズによって発掘され修復されたクノッソス宮殿。伝説の迷宮は実在した。前景はオリーブの木。(イラクリオン)

C レストランのテーブルクロス。クレタ島の地図と白ワイン。(イラクリオン)

地中海の幸
クレタ島は、エーゲ海のほかの島と同じく、世界有数の観光地である。地中海性気候は夏が乾季だから、青い海と青い空に映える白い家並みを見たかったら夏に限る。だから観光客は夏に集中する。おちついて地元メシを楽しめる環境ではなさそうだ。そこであえてオフシーズンの冬を選んだ。12月の終わり、クレタ島最大の町イラクリオンの旧市街は、ほどほどの数の観光客と島民とおぼしき人たちがクリスマスモードの中、楽しそうに町をぶらつき(写真D)、あちこちの店で食事を楽しんでいた。
D 旧市街の中心から港に下っていく道。エーゲ海が見える。ほぼ同じ位置から撮影した2枚(快晴の日→雨模様の日)。(イラクリオン)

島だからやはり海の幸だ。特にタコとイカを推している店が多い。クノッソス宮殿から出土した壺にもタコが描かれている。22歳のときはイカのフライを頼み、オリーブ油をたっぷりかけて食べた。安くて満腹になれたからだ。クレタ島再訪を記念する最初の食事はイカのフライと決めていた(写真E)。ただし今回は添えられていたレモンを搾った。オリーブ油で揚げてあるから正しい食べ方はこちらだろう。
E イカのフライとダコス。クレタ島で最初の食事。(イラクリオン)

ダコスは厚切りのラスクの上にトマトと刻み玉ねぎにフェタチーズ、オレガノがのっていて、香りの高いオリーブ油がまわしかけてある。精製度の低い粉を使っているのだろう。焦げ茶色のラスクの素朴な口当たりが好ましい。店の看板猫に相手をしてもらいながら46年ぶりのクレタ料理を楽しんだ(写真F)。
F 遅めの昼食でほかに客はなく、まったりした時間が流れる典型的な島の午後だった。(イラクリオン)

特に印象的だったのがコウイカ(正しくはヨーロッパコウイカ)の墨煮。墨に負けないくらいたっぷりオリーブ油を垂らして食べたら、さらにこくが深くなった(写真G)。
G コウイカの墨煮とズッキーニのフライとドルマデス。奥はオリーブ油とクレタ島産の白ワインのボトル。港(ベネチアンハーバー)が見えるレストランにて。(イラクリオン)

イタリアのベネチアが起源の料理らしいが、クレタ島は13世紀から400年以上にわたってベネチアの支配下にあったから、この時代に伝わったものかもしれない。港にはその時代に築かれた要塞が今も残っている(写真H)。そのうしろはズッキーニのフライ。もちろんオリーブ油で揚げてある。いちばん奥はドルマデス。米と野菜や肉をぶどうの葉で包み、レモン汁が入ったすっぱいスープで煮たギリシャ料理で、ザジキと呼ばれるヨーグルトソースで食べる。ドルマとはトルコ語で「詰める」ことを意味し、トルコや中東にもほぼ同じものがある。葉で巻けば詰め物になるので、これもドルマと呼ばれるようだ。ギリシャは16世紀初めから19世紀にかけてオスマン帝国(トルコ)の支配下に入っていたから※1、この時代に東側から伝わった可能性が高い。
H ベネチアンハーバー。ベネチアの支配下にあった時代に築かれた港の要塞。(イラクリオン)

クレタ島から東におよそ800km、地中海の東端にキプロス島がある。キプロス共和国という独立国だが、ビザンチン帝国(東ローマ帝国)時代の雰囲気を遺し、住民のほとんどがギリシャ系である(写真I)※2。
I 9世紀に建てられたビザンチン様式の教会。(ラルナカ)

キプロス島南岸のラルナカにある海岸沿いのレストランでフィッシュ・メゼを頼んだら、ものすごい量が来た(写真J)※3。まるごと蒸し焼きにしたスズキとタコの足のグリルに筒のままのイカのフライ。ほかにエビとムール貝まであった。
J キプロスのフィッシュ・メゼ。スズキの蒸し焼きとタコ足のグリルと筒のままのイカのフライ。エビとムール貝もあった。中央のディップは奥がザジキ(ヨーグルトソース)、その手前がタラモサラタ(魚の卵、玉ねぎのみじん切り、パン、レモン汁、オリーブ油を混ぜたもの)。野菜サラダにピタ(平たいパン)とポテトフライ。それにもちろん白ワイン。料理は2人分。それでも尋常な量ではなかった。(ラルナカ)

もちろん、島民が毎日こんなごちそうばかり食べているはずはない。そこで、イラクリオン滞在中、スーパーマーケットで食料を調達してクレタ風の夕食を作ってみた(写真K)。けっこう嚙みごたえのあるギリシャのごまパン(クルーリ)、チーズとサラミソーセージが少し、缶詰めのタコのオイル漬けとドルマデス、かたくて少しすっぱいいちご、カットレタス、そしてヨーグルトにロゼのワイン。並べただけだがなかなかの夕食ができた。
K スーパーマーケットでそろえた夕食。ギリシャのごまパン(クルーリ)、チーズとサラミソーセージ、缶詰めのタコのオイル漬けとドルマデス、かたくて少しすっぱいいちご、カットレタス、ヨーグルトにロゼのワイン。(イラクリオン)

地中海食の歴史
第二次世界大戦後まもなくの1948年、島民の貧しさを案じたギリシャ政府が、アメリカのロックフェラー財団に詳細な生活調査を依頼した。53年に発表された報告書によれば「オリーブ、穀物、豆、野菜とハーブ類、果物が豊富」であり、「食べ物は文字どおり油(オリーブ油)の中で泳いでいる」と記されている。政府の予想に反して、「栄養状態はすこぶる良好」であり、「島民の食習慣は栄養学的な必要量を満たしているだけでなく、土地の自然環境や経済資源にもうまく適応している」とさえ書かれていた(文献①)。そのころ、西欧諸国では結核などの感染症に代わっていわゆる生活習慣病が健康問題の中心になりつつあった。その筆頭が心筋梗塞だった。心筋梗塞は動脈硬化によって冠動脈※4が詰まる病気で、動脈硬化にはあぶら(脂質)、特に飽和脂肪酸のとりすぎがからんでいることが明らかになってきた。
そこで1958年、アメリカの生理学者アンセル・キースの提案で7か国の研究者が集まり、食事と心筋梗塞に関する疫学研究が始まった。「7か国研究」と呼ばれる。心筋梗塞が多い国としてフィンランドとオランダとアメリカ、少ない国としてイタリアと当時のユーゴスラビアとギリシャと日本が参加した(図1、文献②)。中でもギリシャと南イタリア、特にクレタ島住民の食習慣は特徴的で、キースはこれを「地中海食」と呼んだ。

その後の研究者がまとめた地中海食の特徴は次のとおりである(文献③)。
(1)精製度の低い穀物、野菜、果物、オリーブ油が食事の基本となっている。
(2)魚、鶏肉、チーズまたはヨーグルト、卵を週に数回食べる。
(3)赤身肉(哺乳類の肉)、菓子は月に数回にとどまる。
(4)食事とともに適度にワインを楽しむ。
このように地中海食の特徴が整理されたことで、地中海食らしさを個人ごとに測ることが可能になり、健康状態との関連をくわしく調べる栄養疫学研究が始まった。1995年、70歳以上のギリシャ人高齢者で、地中海食の特徴が1つ増えるごとに総死亡率が2割近く下がることが確認され(文献④)、続いて2003年には、2万人以上のギリシャ人成人を対象とした研究で、地中海食の特徴が2つ増えるごとに総死亡率は2割以上、心筋梗塞による死亡率は3割以上も下がることがわかった(文献⑤)。
このような報告に基づいて、地中海食らしさをさらに整理したものが「地中海食インデックス(または地中海食スコア)」※5として提案され、さまざまな国で地中海食らしさと生活習慣病に関する栄養疫学研究が行われるようになった(表、たとえば文献⑥)。その結果、地中海食は心筋梗塞だけでなく、脳卒中や糖尿病、骨折などたくさんの生活習慣病のリスクを下げるとともに(図2、文献⑦⑧)、高齢者の寿命を延ばす可能性が複数の研究で観察され(図3、文献⑥)、科学が認めた健康食、長寿食として世界中に広がった。



オリーブ油と赤ワイン
地中海食といえばやはりオリーブ油と赤ワインだろう。オリーブ油が地中海食の代名詞になるのはわかる。しかし、地中海食インデックス(表)がオリーブ油をM/S比と書きかえたように、オリーブ油の最大の特長は、S(飽和脂肪酸)が少なく、M(一価不飽和脂肪酸)が多いところにある。7か国研究で行われた食事調査でも、クレタ島を筆頭に地中海沿岸地域の集団でSが少なくMが多い様子がわかる(図4、文献②)。Sが少ないという点で、菜種油はオリーブ油にかなり近く、対極がバターなどの動物脂である。だから日本食はそれなりに地中海食的だといえる。

確かに地中海食の定義には赤ワインと書かれているものが多い(文献③)。しかし、ワインとだけ書かれているものもあり、地中海食インデックスに至ってはアルコールとしか書かれていない。それに、地中海の食材には「赤」よりも「白」のほうが合うとぼくは思う。それよりも、「食事とともに」という注釈のほうに注目したい(文献③)。
コウイカの墨煮を楽しんだあと、サービスデザートとして甘いものが3種類とラキが出た。ギリシャの甘味ではずせないのがルクマデス(写真L)。はちみつとシナモンがかかった揚げドーナツでかなり甘い。ラキはクレタ島産のぶどうの搾りかすで造る蒸留酒である。ウイスキーならダブルがゆうに2杯分はあった。これは明らかに地中海食に反する。しかし、こんなにすてきなサプライズは初めてだったし、「食事とともに……楽しむ」にぎりぎり当てはまる。こう解釈してありがたくいただいた。
L サービスデザートとして出てきたルクマデスのアイスクリーム添えとラキ(クレタ島産のぶどうの搾りかすで造った蒸留酒。アルコール度はおよそ40度)。甘味はもう2品あり、サービスの域を完全に超えていた。なぜかストレートのラキが甘味にとても合った。(イラクリオン)

地中海食離れ
平野が少なく乾燥したクレタ島やキプロス島では、やせた土地でやぎや羊を育ててきた。だからかつて肉は貴重品で、チーズもやぎや羊の乳から作られた。クレタ島にはフェタチーズがあり、キプロスにはハルミチーズがある(写真M)※6。イラクリオンでは肉料理がおいしそうなレストランにも入ってみた。残念ながらその日はやぎも羊もなかったので、田舎風の牛肉の煮込みとクレタ島産のソーセージのグリルを選んだ(写真N)。どちらも脂が少なく嚙みごたえがあった。
M ハルミチーズ。とろみはなく、むしろ張りがあって嚙むとキュッと音がする不思議なチーズ。(ラルナカ)

N 田舎風の牛肉の煮込みとクレタ島産のソーセージのグリル。ワインはロゼを合わせた。(イラクリオン)

食料消費量データを使って国単位の地中海食の程度(地中海食適合スケール)を計算した研究がある。これによると、1961~65年当時はギリシャが世界最高を誇っていた(図5、文献⑨)。

ところが、2000~03年には世界10位と大きく順位を落としてしまった。ギリシャでも魚より肉のほうが安い。だから庶民が肉に流れるのは道理だ。代表はギロスだろう。トルコのドネルケバブのギリシャ版だ。これもオスマン朝(トルコ)の置き土産だろうか。ただし、羊から豚に変わっている。アテネの中央市場近くの人気店で食べたギロスは典型的な大盛りだった(写真O)。
O 大盛りのギロス。ザジキで食べる。左は赤ワイン。中央市場近くの人気店にて。(アテネ)

代表的なギリシャ料理の一つにムサカがある(写真P)。ひき肉となすとじゃが芋などを重ね焼きにした料理だが、トルコにも同じ名前の料理があり、その語源はアラビア語の「冷やす」にあって、ギリシャなどに伝わる過程で温かい料理に変わっていったらしい。トルコ族は中央アジアから移動してきた民族で肉料理が得意だから、ギリシャの肉料理は、ほかのバルカン半島の国々と同じく、オスマン朝の影響を強く受けているように見えた。
P ムサカとポテトフライとトマト。それに白ワイン。奥はピタに詰めたギロスとポテト。右はトースト。(イラクリオン)

ギリシャだけではない。同じ時期、ヨーロッパ側の地中海沿岸国では一様に地中海食離れが起こった(図5)。その結果、地中海の南側に並ぶイスラム諸国が上位を占めることになった。このあたりの事情と最近の動向は、モロッコとスペイン(アンダルシア)を旅しながら紹介したことがある※7。
地中海食の本質
イラクリオンの旧市街を歩いていたら不思議なことに気づいた。下を向いてスマホ(スマートフォン)を見ながら歩いている人がいない。みんな前を向いている。そして楽しそうにおしゃべりをしている。それに、アメリカ資本のファストフードチェーン店がない。少なくとも旧市街では一軒も見なかった。さらに、観光地だという点を差し引いても町の規模に対してレストランが多すぎる。しかも、オフシーズンのはずなのにどこもにぎわっている。
ギリシャ人は家族と過ごす時間をたいせつにしてきた。アテネでは一日に4回交通渋滞があったと、どこかで読んだことがある。昼食を家族ととるために家に帰っていたのだ。恋人や友人に対してもそうだったのだろう。彼らにとって食事はたいせつな人とたいせつな時間を過ごすためのたいせつな場であった。たいせつな時間はゆっくり過ごしたい。この視点でもう一度地中海食インデックス(表)を見ると、食べるのに時間がかかる食材ばかりが地中海食的であることに気づく。
地中海食は健康・長寿のために作られたものではない。平野の少ないやせた土地で手に入るものを並べたらこうなっただけのことだ。それをたいせつな人との時間をたいせつにしたい人たちが守ってきたのだろう。地中海食の本質は、なにを食べるかよりもむしろこちらにあるように思えてきた。少なくとも食材の組み合わせとしては、この半世紀、ギリシャ人は地中海食から遠ざかってしまった。このデータを見てからギリシャを訪ねたので、地中海食本来の姿をクレタ島で見られて少しほっとした。
※1 クレタ島がオスマン帝国の支配下に入ったのは17世紀中ごろである。
※2 1974年、ギリシャ合併推進派によるクーデターが発生した。すると、トルコが軍事侵攻し、キプロス北部を占領した。1983年、「北キプロス・トルコ共和国」が独立を宣言した。しかし、この国を承認しているのはトルコだけである(2026年5月8日現在)。
※3 メゼは一般的には前菜を指すが、キプロスではコース料理全体もメゼと呼ぶ。
※4 冠動脈は心臓のまわりにあって心臓の筋肉に酸素や栄養を送っている動脈。
※5 地中海食の実践の程度を評価する指標は複数あり、それぞれに「インデックス」「スコア」「スケール」などさまざまな呼び名が用いられているが、いずれも初出の指標を基に改良が重ねられてきた経緯から、類似した内容のものが多い。
※6 今は牛乳からも作られるらしい。
※7 『栄養と料理』2019年7月号「モロッコ 現代に生きる地中海食を探しに」(38~43ページ」と2021年1月号「スペイン(アンダルシア) 地中海食への回帰と長寿世界一への舞台裏」(51~57ページ)で紹介した。
参考文献
- Trichopoulou A. Olive oil, Greek Mediterranean diet heritage and honoring the past to secure our future: Priorities for research and education. Front Nutr 2022; 9: 1058402.
- Kromhout D, et al. Dietary saturated and trans fatty acids and cholesterol and 25-year mortality from coronary heart disease: the Seven Countries Study. Prev Med 1995; 24: 308-15.
- Hu FB, et al. Three decades of the Mediterranean diet pyramid: A narrative review of its history, evolution, and advances. Am J Clin Nutr 2025; 122: 17-28.
- Trichopoulou A, et al. Diet and overall survival in elderly people. BMJ 1995; 311: 1457-60.
- Trichopoulou A, et al. Adherence to a Mediterranean diet and survival in a Greek population. N Engl J Med 2003; 348: 2599-608.
- Bonaccio M, et al. Mediterranean diet and mortality in the elderly: a prospective cohort study and a meta-analysis. Br J Nutr 2018; 120: 841-54.
- Dinu M, et al. Mediterranean diet and multiple health outcomes: an umbrella review of meta-analyses of observational studies and randomised trials. Eur J Clin Nutr 2018; 72: 30-43.
- Fa-Binefa M, et al. Mediterranean Diet and risk of hip fracture: A systematic review and dose-response meta-analysis. Nutr Rev 2025; 83: 1133-43.
- Vilarnau C, et al. Worldwide adherence to Mediterranean Diet between 1960 and 2011. Eur J Clin Nutr 2019; 72(Suppl 1): 83-91.
佐々木 敏
東京大学名誉教授、日本栄養大学大学院客員教授
ささきさとし●三重県出身。医師、医学博士。国立健康・栄養研究所栄養疫学プログラムリーダー、東京大学大学院医学系研究科教授等を歴任。「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)策定において中心的な役割を担い続けている。趣味は国内外の市場めぐりと食べ歩き。


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