タルトは和菓子? 洋菓子? 食品成分表が映す食の変化 【成分表連載58】

栄養 食品成分表
渡邊智子 わたなべともこ

学校法人食糧学院 東京栄養食糧専門学校 校長


東京栄養食糧専門学校校長。医学博士。千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。


日本食品標準成分表は、公表時点で日本人が日常的に利用している食品が収載されています。

成分表の改訂では、新たな食品が収載されることがあります。こうした食品は、それまで成分表に収載されていなかったものの、その時代には常用され(多くの人が知っていて食べている)、今後もその状況が続くと予測される食品です(今後も常用する食品として定着するかどうかは、なかなかむずかしいですが)。

食生活の変化を反映して食品成分表に加わったことが納得できる食品はいくつもありますが、今回ご紹介する「タルト」は、まさに、そういう食品です。

デジタル大辞泉」「精選版日本国語大辞典」「調理用語辞典」にみるタルト  

デジタル大辞泉、精選版日本国語大辞典および調理用語典を見ると、「タルト」には2つの意味があります(表1)。1つは愛媛県の銘菓である「あんをカステラで巻いたタルト」、もう1つは果物やクリームをのせた洋菓子のタルトです。写真1に、それぞれの例を示しました。

表1 辞書などにみるタルト

出典:デジタル大辞泉精選版日本国語大辞典、調理用語辞典:1990年第1版第8刷、社団法人全国調理師養成施設協会編集発行 をもとに作成。

写真1 2種類のタルト

2種類のタルト、どちらも、知っていましたか? 食べたことはあったでしょうか? どちらもおいしいので、ぜひ召し上がってください! 

タルトは、四訂日本食品標準成分表で初めて収載されました! 

食品成分表のタルトは、1982年公表の「四訂日本食品標準成分表」に、初めて収載されました。ただし、このとき収載されたのは現在一般的にイメージされる洋菓子のタルトではありません。 

表1に示したタルト①の「愛媛の銘菓」です。 

この「タルト」の所属は、4群「菓子類」の「和菓子」の「生・半生菓子類」です。備考欄には、部分割合:皮2、あん1、しょ糖39gの記載があります。四訂成分表の「第4章 資料」には、下記が記載されています(表2)。 

表2 「四訂日本食品標準成分表」におけるタルトの説明(第4章 資料)

「タルト」は、あんをゆず(柚子)の香りのするカステラ生地で巻いたものである。製品の部分割合として、カステラ生地2、あん1のものを対象とした。なお、本編収載のタルトは、洋菓子の一種のタルトとは別種のものである。

さらに、「第4章 資料」では、生・半生菓子類の原材料配合割合(和菓子)の一覧表があります(表3)。

表3 「四訂日本食品標準成分表」におけるタルトの原材料配合割合(第4章 資料)

 小麦粉(薄力1等) 砂糖(上白) 水あめ 鶏卵(全卵) 中割あん 
皮生地 100 200 50 200  
あん     100 

タルト(和菓子)は小麦粉、砂糖、卵、水あめからなるカステラ生地と、あんから構成される比較的シンプルなお菓子であることがわかります。 

この菓子は、愛媛県の銘菓として販売されてきました。そのため、愛媛県外では、「お土産としていただくお菓子」というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。

また、農林水産省のサイト「うちの郷土料理」にも愛媛県の郷土菓子として掲載されており、地域に根差した食文化の1つであることがわかります。 

タルトはなぜ和菓子? 

食品成分表では、明治時代以前に、海外から日本に紹介され定着しているお菓子は、「和菓子」としています。それは、それらのお菓子が、日本人のし好に合うように、くふうされ商品化され流通しているからです。

四訂成分表では、タルトだけでなく、カステラやボーロも和菓子として扱われています。ちなみに、四訂成分表では、明治時代以降に、西洋から渡来したお菓子は洋菓子に区分されています。 

「和菓子タルト」は、300年も前にオランダ船で伝来した南蛮菓子の1種です。当初は洋菓子のタルトに近い形態の菓子であったと推察されますが、天明の倹約令※1による南蛮菓子の製造中止などの変遷を経て、和菓子タルトの形になったそうです(医歯薬出版「新版食品大事典」平宏和他編、2019)。300年も前から食べているお菓子であれば、確かに「和菓子」で納得します。 

愛媛の郷土菓子になったのは、松山藩主松平定行が長崎探題として在任のときに、出島の異人館で饗応された南蛮菓子を気に入り、松山にその製造技術を伝えたためとされています(「新版食品大事典」、2019)。

※1 天命の倹約令:1723年に徳川吉宗によって発令された。 江戸幕府の財政再建を目的としており、奢侈を禁じ、質素倹約を強制した。

もう1つのタルトは、成分表2015(七訂)から収載!

じつは、多くの方が「タルト」と聞いて思い浮かべる洋菓子のタルトは、長らく食品成分表には収載されていませんでした。洋菓子店で販売されている「タルト」が初めて収載されたのは、2015年に公表された日本食品標準成分表2015年版(七訂)です。 

このタルトは、「菓子類」の「ケーキ・ペストリー類」に所属し、食品名は「タルト(洋菓子)」です。 

一方、四訂成分表から収載されていた「タルト」は、食品名が「タルト(和菓子)」に変更されました。所属は、これまで同様に「和生菓子・和半生菓子類」の所属です。 

2015年ごろには、「タルト」といえば、多くの人が洋菓子店で販売されるフルーツタルトなどを思い浮かべていたのではないでしょうか。成分表2015での、タルト(洋菓子)の収載は、日本における主に流通している「タルト」の変化に伴うものと言えます。 

なお、この成分表では、タルト(和菓子)の備考欄には、「あん入りロールカステラ、柚子風味小豆こしあん入り、部分割合:皮2、あん」と記載され、ケーキ屋さんで売っているタルト(洋菓子)と違うことが、成分表の食品群別留意点を見なくても、わかるように配慮されています。それでも、多くのユーザーが、これまで成分表に収載されていた、タルト(和菓子)で、タルト(洋菓子)を栄養計算していたと聞いています。 

最新の日本食品標準成分表(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」)収載の2種類のタルト 

日本食品標準成分表(八訂)増補2023年には、「タルト(和菓子)」およいび「タルト(洋菓子)」が収載されています。第3章資料の1. 食品群別留意点には、2種類のタルトについて下記の記載があります(表4)。両者の説明が、これまでより、詳細になっています(進化している)。この表をみると2種類の相違がよくわかります(写真1)。 

日本食品標準成分表(八訂)増補2023年の「タルト(和菓子)」は、愛媛銘菓「タルト」や、あんロールカステラを食べた場合に利用する値です。また,原材料が類似していることから、シベリア※2の栄養計算にも利用できます。 

「タルト(洋菓子)」は、ケーキ屋さんなどから購入したタルトの栄養計算に使う値です。 

※2 シベリア:羊羹のような弾力のある餡をカステラ生地で挟んだ菓子。

表4「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」におけるタルトの説明(第4章資料)

15024 タルト(和菓子)   「タルト(和菓子)」は、柚子(ゆず)の香りのするあんをカステラ生地で巻いたもの(あんロールカステラ)である。愛媛県の郷土菓子であり、洋菓子のタルト(15133)とは異なる。成分値は、原材料の配合割合と成分値に基づき計算により決定した。なお、シベリアも原材料は類似しており、この収載値を用いることができる。  
製品部分割合:皮2、あん1   
原材料配合割合:皮生地〔砂糖(上白糖)200、鶏卵(全卵)200、小麦粉(薄力1等)100、水あめ50〕、あん〔中割あん100、ゆず果汁7.8〕  
15133 タルト(洋菓子)   「タルト(洋菓子)」は、パイ生地やビスケット生地の上に、ホイップクリームやカスタードクリーム、果実やナッツを載せた菓子である。パイのように表面を覆わないのが特徴である。収載食品はいちごタルトである。成分値は、原材料の配合割合と成分値に基づき計算により決定した。  
製品部分割合:タルト22.5、スポンジケーキ19.6、その他(カスタードクリーム等)54.9   
原材料配合割合:いちご31.9、ワインゼリー2.4、ホイップクリーム6.3、カスタードクリーム14.2、スポンジケーキ19.6、タルト生地25.5(ハードビスケット17、無塩バター8.5)    
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から2種類のタルトの主要な成分値と備考欄を表5に示しました。両者の相違率(タルト(洋菓子)÷タルト(和菓子)×100)を計算し、それも示しました。 
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から2種類のタルトの主要な成分値と備考欄を表5に示しましました。両者の相違率(タルト(洋菓子)÷タルト(和菓子)×100)を計算し、それも示しました。 

表5 タルト(和菓子)とタルト(洋菓子)の主要な成分値  「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」より。

ピンク:タルト(和菓子)が洋菓子より多い|水色:両者は同じ|黄色:タルト(和菓子)が洋菓子より小さい

両者を比べると、洋菓子タルトはイチゴや乳製品など多様な材料を使用するため、ビタミン類や無機質が比較的多い傾向がみられました。一方、和菓子タルトは原材料が比較的シンプルで、炭水化物の割合が高いことが特徴です。 

どちらもおいしいお菓子ですが、同じ「タルト」という名前でも、その背景や成分値には違いがあります。こうした違いを知ることも、食品成分表の楽しみ方の一つかもしれません。 

まとめ 

タルトの事例は、食品成分表がその時代の「常用する食品」を反映しながら変化してきたことを示す好例といえるでしょう。 

なお、市販のタルトには、レモンタルトやチョコレートタルトなどさまざまな種類があります。成分表の「タルト(洋菓子)」は、いちごタルトを対象として作成された値であるため、これらのタルトの成分値は掲載されていません。成分値を知りたい場合には、レシピに基づいて算出する必要があります。 

猛暑が続く季節となりました。水分補給に留意して、どうぞお健やかにお過ごしください。猛暑を乗りきるおやつとして、冷たく冷やしたタルト(和菓子)やタルト(洋菓子)はいかがですか。2種類とも心を弾ませる、おいしそうで、おいしいお菓子です。 

食事を提供する方だけでなく、食べる側も含めて食品衛生に十分留意し、おいしい食事の提供につなげていきましょう。

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タルトは和菓子? 洋菓子? 食品成分表が映す食の変化 【成分表連載58】
https://www.eiyotoryori-plus.com/webmagazine/food_composition_table/16831/
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