アスリートの食事や栄養管理を支えるスポーツ栄養士。興味はあっても、「どんな仕事をしている?」「どうやってスポーツ栄養を学ぶ?」「どんなキャリアがある?」と、具体的な働き方まではイメージしにくいかもしれません。
今回お話を伺ったのは、フリーランスのスポーツ栄養士として活動する平見悠(ひらみ・はるか)さん。大学にはスポーツ栄養の専門コースがなかったため、大学外でも学びを重ね、会社員としての経験を経て独立しました。
現在の仕事内容や、スポーツ栄養の道を選んだきっかけ、フリーランスとして働くやりがいやむずかしさ、そしてこれからスポーツ栄養の仕事を目指す人へのメッセージをお聞きしました。
スポーツ栄養士を目指すきっかけは? 大学外でも専門知識を学ぶ
下に記した平見さんの一日のスケジュールは、取材当日の例。朝から夜に至るまでこまごまと予定が詰まり、しかもアスリートとのオンライン面談に栄養セミナーへの登壇、オンライン講習の講師など、業務内容もバラエティーに富んでいる。

もともと平見さんは、特にスポーツ栄養士を目指していたわけではなかった。
「栄養士になろうと思ったのは高校生のときで、そのころから、スポーツ栄養という存在はなんとなく知っていました」という平見さん。スポーツ栄養士を本格的に目指すようになったのは大学時代で、スポーツ栄養士として活躍する先輩との出会いが大きなきっかけになったという。
「先輩の話を聞いたり、紹介されたセミナーに参加したりすることが、スポーツ栄養の世界を深く知るよい機会になりました。しだいに、スポーツ栄養士を目指そうという思いが強くなっていきました」
平見さんが通っていた兵庫県立大学にはスポーツ栄養の専門コースはなく、平見さんは大学以外の場に、学びの機会を求めた。そこで出合ったのが、スポーツ栄養士やスポーツトレーナーを育成するスポーツ専門職の育成コミュニティ・育成事業「World Player Project(現・Ascenders College[アセンダーズカレッジ])」だった。
「現在はオンラインの講義が中心ですが、私が学び始めたころは大阪に校舎があり、兵庫から毎週のように足を運んで講義を受けていました。通うのがたいへんだと思ったこともありましたが、なにより、専門的な知識に触れることが楽しく、スポーツ関連のプロジェクトに参加させていただいたことも貴重な経験になりました」
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スポーツ栄養士の仕事はどう始める? 会社員とフリーランスの2足のわらじ
大学卒業後は、アスリート向けの食事提供などを手がける株式会社グランドスポーツに就職。平見さんは学生アスリート寮に赴き、献立作成から食材の発注、調理、従業員管理、栄養指導まで、食事にかかわる幅広い業務を任された。
「ときには80~90人分の寮生の食事を作ることもありました。スポーツの現場ならではの食事量に、初めのうちは驚きましたが、スポーツをがんばっている学生さんたちに食事を提供する仕事は楽しく、なにより“おいしい”といって食べてくれたことがうれしかったです」とふり返る。
そんな平見さんは、就職して2年目から、会社員として働くかたわら、スポーツ栄養士として個人でも仕事を受けるようになる。正確には、Ascenders株式会社から「所属スポーツ栄養士」の認定を受け、同社を通じてスポーツ分野の仕事を受けるようになったということである。
「認定を受けるには規定の試験に合格することが必要で、認定後はスポーツ領域に特化した仕事を受けられるようになります。個人で仕事をする場合は、栄養士に限らず、みずから人脈を広げて仕事を獲得する必要がありますが、この部分を所属先がサポートしてくれるというしくみです」
平見さんは、在学時代を含めて約3年間の学びの末に認定試験に合格。“2足のわらじ”生活を約4年間続けたのち、勤めていた会社をやめて独立し、フリーランスのスポーツ栄養士として、本格的な活動をスタートさせた。
「サポートのしくみがあるとはいえ、一度手がけた仕事を継続できるかどうかは、私の努力しだいです。また自分からも新しい仕事を見つけて、活動の幅を積極的に広げています」
こうした活動を続ける中で、平見さんは2024年からAscenders Collegeの運営にも携わることに。あわせて調理実習の講師も担当し、次世代のスポーツ栄養士を育てる役割も担うようになった。
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フリーランスのスポーツ栄養士、その仕事のリアル
改めて、スポーツ栄養士としてどのようなときにやりがいを感じるか、平見さんにお聞きした。
「やはり自分の栄養管理が、アスリートのパフォーマンス向上につながったことを実感したときです。ふだんは、自分の栄養管理がどれほどアスリートの力になっているのかが、なかなか見えにくいものなので、少しでも役に立てたと感じたときは、素直にうれしいです」
逆に、たいへんだと感じるときは「体力的にも精神的にもハードなこと」と話す。
「現在、複数のアスリートをかけ持ちして栄養管理を行なっているのですが、競技種目が変われば、栄養サポートの内容も変わりますし、好き嫌いなどの個別の要望にも対応する必要があります。また、合宿に帯同して食事を作るときは、体力的にもハード。現地の食材や調理器具を考慮して、1日3食の献立を考えることにもくふうが求められます」
ときには、アスリートの自宅に赴いて、作りおきの食事を調理することもあるという。
「これ(下記)は、男性アスリートの当日を含めた3日分の夕食のおかずを作りおきしたときの一部です。1品ずつ保存容器に入れて冷蔵しました。アスリートの皆さんも多忙な日々を送っているので、スケジュール調整に苦労することもあります」

多彩な仕事を受け持つことができたり、合宿などの長期的なスケジュールを調整しやすかったりする点は、フリーランスの強みといえる。しかし、仕事を受けようと思えばいくらでも受けることができる環境にあるからこそ、自己管理が重要になる。
「スケジュールがきびしくても、つねに“質のよいものを提供する”という姿勢で仕事に臨んでいます。現状では、まだ自分のキャパシティを超える段階には達していませんが、仕事と自分の余力をてんびんにかける意識は、フリーランスとして欠かせないと思います」
スポーツ栄養士として成長するために。働きながら学び続ける
フリーランスのスポーツ栄養士として、生き生きと活躍する平見さん。キャリアスクールを“卒業”してフリーランスとして独立できた背景には、「先に卒業した仲間たちの、活躍ぶりを目のあたりにしたことがあります」と語る。
「アスリートの栄養管理に携わる姿や、海外でプレーする選手に同行してサポートしている姿は、“自分もがんばらなくては!”と奮い立たせるモチベーションになりました。また、大学卒業後に就職した会社で学生アスリートにかかわる仕事をしたことも、私にとっては大きな経験でした。“勉強すれば、もっと学生たちのためにできることがあるのではないか”という思いも、学び続ける原動力になりました」
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スポーツ栄養士として独立後も平見さんの学びは続いており、2025年には「ISAK認定国際身体計測技師」(国際基準に沿って身体計測を正確に行なうための専門資格)のレベル1を取得。また2026年10月からは、公認スポーツ栄養士として登録される予定だ。
平見さんは、Ascenders株式会社のスタッフとして授業の運営に携わる立場も、自身の学びにつなげているという。「じつは私が授業の講師を選定させていただくことがあるのですが、私自身の関心分野にくわしいかたを講師としてお招きし、受講者の皆さんとともに、私自身も学ばせていただくことがあります」
自身の活動領域を広げることから、未来のスポーツ栄養士の育成まで、日々走り続ける平見さんの進化は止まらない。「いつかチーム専属の栄養士になって、チーム全体を支えたい」という夢も、近い将来、現実のものとなるだろう。
◉プロフィール
平見 悠(ひらみ・はるか)
兵庫県立大学環境人間学部環境人間学科食環境栄養課程卒業。在学中から「World Player Project(現・Ascenders College)」でスポーツ栄養分野の業務について学ぶ。株式会社グランドスポーツに就職後、2024年にフリーランスのスポーツ栄養士として独立。技術や知識をみがくだけでなく、あいさつやお礼など、基本的なコミュニケーションもたいせつにしている。

「スポーツ栄養士」と「公認スポーツ栄養士」
スポーツ分野で栄養サポートに携わる人は一般に「スポーツ栄養士」などと呼ばれますが、「公認スポーツ栄養士」は、日本栄養士会と日本スポーツ協会が共同で認定する資格です。資格取得には管理栄養士であることなどの条件があり、専門的な研修や実務経験などを経て認定されます。
取材・文・撮影(人物)/木山京子
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・『栄養と料理』2020年1月号 p100-101 連載「海外のスポーツ栄養士に直撃!」(企画・構成・文/橋本玲子)*12月号まで連載。
・『栄養と料理』2020年5月号 特集「スポーツ栄養入門」
・『栄養と料理』2022年5月号 特集「女性の健康とスポーツ」
・『栄養と料理』2024年1月号 p98-101「栄養」の仕事人[大前 恵さん]
・『栄養と料理』2024年8月号 特集夏のスポーツと栄養
・『栄養と料理』2024年11月号 p58-61「栄養」の仕事人[根本裕理さん]
・『栄養と料理』2025年11月号 p60-63「栄養」の仕事人[髙木久見子さん]