夏の休日、ふだん後まわしにしがちな道具の手入れにとり組んでみてはいかがですか?
今回は、京都市で包丁店を営むかたわら、全国で包丁とぎの講座を開催している廣瀬康二さんに、家庭で気軽に実践できる包丁の基本的なとぎ方を教えていただきました。
包丁をとぐ前のQ&A
Q. 鋼(はがね)の包丁とステンレスの包丁では、とぎ方が違いますか?
A. とぐ手順は同じです。ただし、ステンレスは鋼のようにくとぐと刃がもたないので、角度をつけて鈍角にとぐ必要があります(図1)。

もう一つ、包丁にはセラミック製がありますが、セラミックは陶磁器の一種なので、切れ味が悪くなったときは、販売店にご相談ください。
Q. どんな砥石を買えばよいですか?
A. 砥石は、形成する粒子(砥粒:とりゅう)の数によって、「荒砥石」(刃が欠けてしまったときなどに使用)、「中砥石」(とぐときにおもに使う)、「仕上げ砥石」(鋼包丁の切れ味を持続させるために使う。ステンレス包丁には使用不可)の3種類に分類されますが家庭では中砥石のみ用意すれば充分です。

2.5㎝×2.5㎝の砥石の中に含まれる砥粒の数を「番手(ばんて)」という。荒砥石・中砥石・仕上げ砥石に分類され、中砥石の番手は#800~#1000となっているので、購入するときの目安に。廣瀬さんのお店で販売している中砥石(3,500円+税)は#800。
道具をそろえてといでみよう!
ここでは、最もポピュラーな三徳(さんとく)包丁のとぎ方をご紹介します。三徳包丁とは図1のような、包丁の両面に角度がついている両刃(りょうば)包丁です。
【注意】包丁には、片面に角度がついている片刃(かたは) 包丁(出刃包丁など)もあり、こちらは両刃包丁とはとぎ方が異なるので、この手順ではとがないでください。
1 砥石を水に20分程度浸す
かわいた状態のままでとぐと、包丁が傷だらけになってしまうので、砥石の内部まで充分に水で満たしておく。

2 必要な道具をセットする
包丁と砥石と、バットやボールに入れた水を用意。砥石は下にぬれぶきんなどを敷いておくと、さらに安定する。とぐときは、まわりに物を置かないようにする(包丁や手が誤ってぶつかり、けがをするおそれがあるため)。

3 表(おもて)面をとぐ
包丁の背の部分に人差し指を添えながら握る。とぐときは包丁を斜めに置くと、とぎやすい。

薄くとぎ上げる鋼の包丁は、包丁と砥石の間に10円玉が2枚入るくらいの角度(写真)が、鈍角に仕上げるステンレスの包丁は、10円玉が4~5枚入るくらいの角度がつくように当てる。この角度をキープしながらとぐことがたいせつ。


4 裏面をとぐ
右手の人差し指を包丁のあごあたりに添えながら握り、砥石とほぼ直角に包丁を置く。表面と同じ角度をつけて包丁を砥石に当て、表面と同じ回数だけ、3つのブロックに分けてとぐ。裏面をとぐときは、手前から奥に刃を押すようにして力を入れる「押しとぎ」にすると、うまくとぐことができる。


5 「かえり」を確認する
刃と垂直に親指を滑らせて(斜めに滑らせると手を切ることがあるので注意)、ひっかかりがあればとぎ上がった証拠。かえりが出ていなければ、さらに3、4 の手順で両面をとぐ。


6 かえりが出たら仕上げをする
包丁と砥石についた泥をいったん水で落とし、砥石をもう一度セットする。新たな泥が出ないよう、水をかけながら、表面・裏面とも3ブロックに分けて、それぞれ5往復だけとぐことを、かえり(図2)がなくなるまでくり返す。
きれいに洗い、水けをふいて完成!

心を寄せて手入れをすれば包丁は一生ものの道具になる
実際にといでみると包丁の見違えるような切れ味に驚く人も多いのでは。「心を寄せて手を入れれば、その思いに包丁はこたえてくれるんですよ」と廣瀬さん。ここからは、包丁とのつき合い方や、日々のお手入れ方法などについて、お話しいただきます。
包丁とつき合うときは「守(も)りの心」を胸に
たとえば、野菜の皮をむくピーラーは使えば使うほどいたみますが、包丁は使えば使うほど手になじんでくるものです。日々心を寄せて手を入れることを、私は「守り」と呼んでいるのですが、特に鋼の包丁は、日々”守りの心”で接することで一生ものの道具になります。
鋼の包丁はさびるし、ひんぱんにとがなくてはならないというイメージを持たれがちですが、じつはこまめにふきんでふきながら調理をし、一日の最後に研磨剤入りの洗剤(クレンザー)できれいに洗ってふき上げれば、さびを充分に防ぐことができます。切れ味も2~3か月ほどキープすることができるんですよ。
一方、ステンレスの包丁はさびにくいので、鋼の包丁ほど神経を使う必要はありませんが、守りの心で扱っていただきたいのは鋼の包丁と同じです。ただ、ステンレスの包丁はすぐに切れ味が鈍ってしまうので、鋼の包丁よりもひんぱんにとぐ必要があります。
「初めての1丁」のおすすめは?
包丁を持つなら、やはり鋼の包丁がおすすめです。初めての1丁を購入するなら、三徳包丁がいいでしょう。三徳包丁の名前は「肉・魚・野菜の3種類が扱える」ことが由来。「万能包丁」という別名を持つほどに、使い勝手のよい包丁です。



◎指導・お話/廣瀬康二(庖丁コーディネーター、《食道具竹上》店主)
廣瀬さんが店主を務める《食道具竹上》では、廣瀬さんが「本刃付け」(鍛冶職人が打った新品の包丁をとぎ上げる作業)した各種包丁を販売。また店内はラボ(とぎ場)と、講座などを開催する厨房《食の間》も併設する。また、使い込んだ包丁を“さらに生かす”、「更生修理」も受けつけている。「ひずみもしっかり補整して、新品以上の状態に戻してくれる」と、プロの料理人からも好評。
《食道具竹上》
京都市下京区黒門通高辻下ル杉蛭子町238-2
https://kyototakegami.com/

| ひろせこうじ●京都の包丁店で修業を積み、2010年に《食道具竹上》を創業。庖丁コーディネーターとして、包丁文化を発信する講演なども行なっている。 |
撮影/津久井珠美 え/渡邉美里 原文/木山京子
・本記事は『栄養と料理』2023年7月号(p54-57「包丁のとぎ方入門」)をもとに、ウェブ掲載用に再編集しています。
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・『栄養と料理』2021年2月号 (p112「食と健康の仕事人」)