令和8年熊本地震から考える防災と備え|今泉マユ子さんに聞く“自分ごと”にする防災とは?

栄養 レポート

目次


     平成28年熊本地震から10年となる今年、熊本県では再び大きな地震に見舞われました。突然やってくる災害に、どのように備えればよいのでしょうか? 『栄養と料理』で「コマゴメ防災新聞」の監修を務めた管理栄養士・防災士の今泉マユ子さんに、令和8年熊本地震で見えてきた課題と日ごろの備えについてご執筆いただきました。

    支援が届くまで、どう暮らしをつなぐ?

     このたびの令和8年熊本地震により被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。一日も早く、ふだんの生活をとり戻されますことを心よりお祈り申し上げます。

     平成28(2016)年の熊本地震は4月に発生しました。今年は猛暑の7月末に発生し、「10年前よりも、暑さがある分、今回のほうがしんどい」という声も報じられました。大地震ときびしい暑さが重なったことで、「暑さ対策」も命を守るために重要であることが、改めて浮き彫りになったといえるでしょう。

     また、前回の熊本地震で被害を受けた知人からは、「ようやく10年が経ち、これからと思っていたところで、また被害に遭ってしまった。精神的にも参っている」という連絡がありました。長い時間をかけて立て直してきた暮らしが、再び大きな地震に見舞われる。その辛さを思うと胸が痛みます。

    令和8年熊本地震後のイオンモール熊本(2026年8月、知人提供) 

    令和8年熊本地震からの教訓——今後の備えのために

     今回、ニュースや行政機関から発信される情報を追う中で、「これは今後の備えに生かさなければ」と感じたことがいくつもありました。そのうち重要だと感じたことが以下の6つです。

    1)車中泊の注意点:移動しなくても、ガソリンは必要

     車中泊では熱中症の危険があり、実際に車中泊をしていた70歳代の女性が、熱中症の疑いで亡くなりました。発見時には、車のガソリンが空の状態だったと報じられました。

     今回、家が大きくこわれていなくても、停電で自宅のエアコンが使えず、暑さをしのぐために車で過ごす人がいました。避難所も停電で冷房できないからと、すぐに開設できない地域もありました。

    真夏の災害では、車が一時的に暑さをしのぐ場所になることがあります。しかし、車内を涼しく保つにはガソリンが必要です。今回、被災地ではガソリン不足や給油待ちの長い列が報じられました。給油のために長時間並び、待っている間もエアコンを使えば、その分ガソリンは減っていきます。

    では、「満タン」にしておけば安心なのでしょうか。

     JAF(一般社団法人 日本自動車連盟)によると、ガソリン車はエアコンを使わないアイドリングだけでも、10分間に約130mLの燃料を消費します。仮に40Lのガソリンがあったとしても、単純計算では約51時間、2日余りで使いきる計算です。実際の燃料消費量は車種や条件によって異なり、エアコンを使ったり移動したりすれば、使用できる時間はさらに短くなる可能性があります。

     一方、真夏の車内は冷房を止めると急激に暑くなります。JAFの実験では、冷房停止から5分後には車内温度が約5℃上昇し、15分後には熱中症指数が危険レベルに達しました。

     車は避難場所になる。でも、ガソリンがなければ暑さをしのぐことも、移動することもできません。ふだんから「残量が少なくなる前に給油しておくこと」に加え、車だけに頼らず、停電したらどこへ移るのか、冷房が使える避難所や施設はどこにあるかを把握しておく必要があると感じました。

    2)「揺れ」だけではない。断層が動く怖さ

     今回の地震で改めて怖いと感じたのが、「断層」です。地震というと「どれくらい揺れるか」を考えがちですが、断層の直上や近くでは、地面そのものがずれ、建物や道路などに大きな影響が及ぶことがあります。今回も大きな地殻変動が観測され、強い揺れによる被害だけでなく、断層のずれや地盤の変形による被害も見られました。

     私は以前、阪神・淡路大震災で地表に現われた野島断層を実際に見たことがあります。また、平成28年熊本地震でも、旧東海大学阿蘇キャンパス周辺に現われた断層を視察しました。地面がこれほど動くのかと、その怖さを目のあたりにし、帰宅後すぐに自宅周辺の断層を調べました。

     自分の家は、どんな土地の上に建っているのか。近くに活断層はあるのか。地盤や土砂災害、浸水のリスクはどうか。家の中を備える前に、まず自分がどんな場所に住んでいるのかを知ることも、たいせつな備えです。

    平成28年熊本地震で現われた旧東海大学阿蘇キャンパスの断層(2023年5月に筆者撮影) 

    3)「薬がとり出せない!」——家具や家電の転倒防止を

     震災の報道から、家具や物が倒れて家の中がぐちゃぐちゃになり、持病の薬をとり出せないと話すかたの姿がとても印象に残りました。熊本総合病院でも、棚や収納ケース、テレビなどが倒れ、移動した棚から薬をとり出す様子が報じられています。

     10年前に大きな地震を経験した熊本でも、今回また多くの室内被害が起きました。家具や家電の転倒・落下・移動防止は、けがを防ぐためだけではありません。地震のあとに必要な物をとり出し、生活を続けるための備えでもあると改めて感じました。

     水や食料、薬を備えていても、必要なときにとり出せなければ使えません。家具や家電を固定すると同時に、毎日飲む薬や眼鏡など、命や生活に欠かせないものは、「地震のあと、この場所から本当にとり出せるか」という視点で、置き場所も見直しておきたいと思います。

    4)断水で、家庭ごみがふだんの2倍以上に

     断水が続く宇城市では、紙皿やペットボトルなどが増え、家庭ごみが「ふだんの2倍以上」出ていると報じられました。市内の焼却場だけでは処理しきれず、約50km離れた施設まで運ばれていました。八代市でも、道路の損傷などで収集がむずかしく、作業が夜まで続く状況でした。

     断水時には紙皿や紙コップなどの使い捨て用品が役立ちますが、使えばその分、ごみが増えます。携帯トイレを使えば、排泄物の入った袋も増えていきます。今回、環境省は、ごみ収集時の飛散を防ぐため、簡易トイレなどの排泄物入りの袋を、できるだけ通常のごみと分けて出すよう呼びかけました。

     「なにを備えるか」だけでなく、「使ったあとどうするか」まで考えておく。今回の報道を見て、そのたいせつさを改めて感じました。災害時は、ごみ袋も多めに必要です。

    5)地震でこわれたものは「災害ごみ」。出し方にもくふうが必要

     地震でこわれた家具、家電、食器、畳、瓦などの「災害ごみ」は、日々出る家庭ごみとは別に扱われます。今回、宇城市では災害ごみの仮置場に多くの車が集まり、混雑が発生しました。そのため、宇城市は利用者に対して、災害ごみはかならず分別して持ち込み、できるだけ一台の車に同じ分別品目だけを積む「単品持込」への協力を呼びかけています。

     仮置場へ持ち込んでから分けるのではなく、自宅で片づける段階から分別しておく。それが荷下ろし時間や待ち時間を減らし、暑い中での負担やガソリンの消費をおさえることにもつながります。

    6)トイレに行くだけでもたいへん。真夏は「蚊」対策も

     ニュース番組のインタビューで、自宅は断水しているため、トイレを使うときだけ避難所へ行っているというかたが、「蚊が多くてたいへん」と話していたのが印象に残りました。トイレを使うために外へ出る。その先で、今度は蚊に悩まされる。真夏の災害では、暑さだけでなく、虫の問題も出てくるのだと気づかされました。携帯トイレや虫よけなど、季節によって必要な備えが変わることも考えておきたいと思います。

    災害は、時間とともにフェーズ(状況)が変わる

     今回の地震報道を見ていて、強く感じたことがもう1つあります。災害は、発生から時間が経つにつれて、困りごとも必要な支援も変わっていくということです。

     発災直後は、まず命を守ること。揺れから身を守り、安全な場所へ避難することが最優先です。その後、停電や断水が続けば、水、トイレ、暑さ、入浴、衛生、食事、薬など、「被災したあと、どう暮らしを続けるか」が大きな問題になってきます。

     今回も時間の経過とともに、全国から給水車やトイレトレーラーが被災地に配置され、水再生循環システムを使ったシャワーなどによる入浴支援も行なわれています。さらに、避難所での生活が長引く中、心身の負担を軽くするため、希望する被災者を対象にホテルや旅館への避難支援も始まりました。

    こうして、支援の内容はしだいに広がっていきます。けれど、大規模災害では、発災直後からすべての人に必要な支援が一斉に届くわけではありません。

     今回、断水は最大約10万8000戸に及び、発災から10日ほど経った8月8日午前10時の時点でも、八代市、宇城市、氷川町で約3万6400戸が断水していました。その時点で支援に入っていた給水車は177台。これだけ多くの支援が入っても、暮らしが元に戻るまでには時間がかかるのです。

    「備え」が災害後の選択肢を増やす

     だからこそ、自分や家族が最初の数日をどう乗りきるのかを、ふだんから考えておく必要があります。水や食料、携帯トイレ、薬、電源、ごみ袋。真夏なら暑さ対策や虫よけ。車を使うならガソリン。必要なものは、家族構成や住んでいる場所、季節によって違います。

     家庭での備蓄は、最低3日分、できれば1週間分が目安とされています。私は、可能であれば2週間分は備えておいたほうがよいと考えています。

     ただし、「2週間分の備え」が、その期間は自宅や車でがまんするという意味ではありません。家が危険なら避難する。暑さをしのげないなら、冷房が使える場所へ移る。薬や医療が必要なら支援を求める。今回のようにホテルや旅館への避難という選択肢が提供されることもあります。

     備えがあれば、災害後の暮らしの選択肢を増やすことができます。状況に応じて、自宅にとどまるのか、避難するのか、支援を求めるのかを判断しやすくなります。

     今回の熊本地震を通して、私は改めてそう感じました。

    平成28年熊本地震で崩落した旧阿蘇大橋(2023年5月に筆者撮影) 

    ◎著者プロフィール
    今泉マユ子(いまいずみ・まゆこ)

    株式会社オフィスRM代表取締役
    管理栄養士・防災士・日本災害食学会災害食専門員
    日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT)リーダー

    1969年徳島県生まれ。横浜市在住。管理栄養士として大手企業の社員食堂、病院、保育園に長年勤務し、2014年に管理栄養士の会社を設立。レシピ開発、商品開発、執筆などのほか、防災食アドバイザーとして全国で講演を行う。東京消防庁から感謝状を11回受領。TBS「マツコの知らない世界」、NHK「あさイチ」などメディア出演多数。著書に『もしもごはん』(清流出版)、『こどものための防災教室』シリーズ(理論社)など24冊がある。

    ◆公式サイト
    https://office-rm.com

    【関連記事】
    ★今泉マユ子さんの「平成28年熊本地震」に関する記事は下記からごらんいただけます(閲覧は有料会員限定。ログインしてご利用ください)。 

    『栄養と料理』2023年9月号 (「コマゴメ防災新聞」p68「過去から学びどう備えるか」)

    令和8年熊本地震から考える防災と備え|今泉マユ子さんに聞く“自分ごと”にする防災とは?
    https://www.eiyotoryori-plus.com/webmagazine/nutrition/18147/
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