食品成分表は、改訂や正誤を重ねながら精度が高められてきました。
その過程には、現在から振り返ると興味深い“変化”も少なくありません。
四訂日本食品標準成分表には二つの版がある
「四訂日本食品標準成分表」は1985年に公表されてから、「五訂日本食品標準成分表」が公表された2000年までの15年間にわたり、日本人の食品成分データベースとして利用されました。そんなに長期間も、と驚かれるかもしれませんが、「三訂日本食品標準成分表」は1963年の公表から四訂の公表まで22年間にわたり標準成分表として使われていたため、それと比べれば短いともいえます。
さて、「四訂日本食品標準成分表」は、日本食品標準成分表の中で唯一、二つの版が公表された成分表です。第二版は1995年に公表されています(写真1)。この第二版は、初版の正誤が静かに反映されたものです。
写真1 四訂日本食品標準成分表

初版と第二版を比較すると興味深い点が多く見られますが、ここでは甘酒のカルシウムに注目して述べます。
なお、「四訂日本食品標準成分表」の正誤表については、前回ご紹介したように『五訂日本食品標準成分表―新規食品編―』(1997年、科学技術庁資源調査会編、大蔵省印刷局発行)に掲載されています。
甘酒がカルシウムの給源?
甘酒は、俳句では夏の季語です。江戸時代には、天秤棒を担いで売り歩く「振り売り」により販売されていました。冷房や冷蔵庫がない時代、夏は体力が落ちやすく、甘酒は水分や多様な栄養素をおいしく補給できる飲み物だったようです。
私たちが現在飲用している甘酒については、「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」の第3章においては、「通常、米麹、米飯、水を混合し、50~60℃で12~24時間保温して糖化させて造られる日本古来の飲料」と記されています。さらに「アルコール分をほとんど含まない」とも記されています。
市販の甘酒には、成分表に掲載されている麹甘酒(原料:米麹+米+水)と、酒粕甘酒(酒粕+水+砂糖)があります。前者はアルコールを含まず、後者は微量のアルコールを含みます。
表1に、食品成分表における甘酒のカルシウム量の変遷を示しました。
「三訂日本食品標準成分表」と「四訂日本食品標準成分表」の値に驚かされませんか? 甘酒は、同時に掲載されていたカルシウムの給源食品である牛乳の約4分の3に相当します。
このことから、三訂が公表された当時、甘酒はカルシウムの給源食品として認識されていたと推察されます。そしてこの認識は、1995年に第二版が公表されるまで続いていたと考えられます。
ところが第二版で、甘酒のカルシウム量が75mgから2mgへと大幅に減少したのです(約97%減)。この変更は衝撃の大きいものだったといえるでしょう。
表1 食品成分表にみる甘酒のカルシウム量の変遷

甘酒のカルシウム値は第二版で訂正されましたが、この変化が成分表の利用者に広く認識されたのは、2000年発行の「五訂日本食品標準成分表」であったと推察します。
したがって、甘酒は約37年にわたりカルシウムの給源として認識されてきた可能性があります。
写真2に「四訂日本食品標準成分表」の正誤表の甘酒の該当箇所を、写真3に「五訂日本食品標準成分表―新規食品編―」の表紙を示しました。


この正誤表を見ると、甘酒のカルシウムは「四訂日本食品標準成分表」の初版6刷で訂正されていることがわかります。同じページのめんつゆのビタミンB1も約90%減少しており、この変更も衝撃的です。
こうした修正を踏まえ、「四訂日本食品標準成分表(二版)」では正誤が反映された形で公表されたといえます。表紙の色を変更することで,変化したことを示しているように思われます。
甘酒のカルシウムが違っているのを発見したのは?
この点については、次のような経緯があります。
ある高齢者施設の栄養士が、「四訂日本食品標準成分表」の甘酒のカルシウム量に着目しました。高齢者は牛乳が苦手な方も多いため、牛乳の代わりに甘酒を提供したいと考えたのです。
しかし、甘酒のカルシウムが多い理由がわからず問い合わせたところ、担当者が調べ、かつてはカルシウム含量の多い米麹が使われていた可能性があるものの、現在は異なるとの回答が得られました。
このように、実務に携わる栄養士が対象者のために献立を工夫する中で抱いた疑問が、成分値の見直しにつながった事例といえます。
食品成分表に対する利用者の素朴な疑問が、正誤や改訂に寄与していることがよくわかります。
また、カルシウムが多い麹を使って製造している甘酒も、どこかで販売されているかもしれませんし、今後、麹を変えることでカルシウムが多い甘酒が製造し販売されるかもしれません。甘酒が再びカルシウムの給源になる可能性もあるのではと推察します。
前回、食品成分表の正誤表の変遷について執筆していた中で、この事例を思い出したのでお伝えしました。
実務に関わる栄養士・管理栄養士の皆様におかれましては、食中毒が気になる季節となりました。
食事を提供する方だけでなく、食べる側も含めて食品衛生に十分留意し、おいしい食事の提供につなげていきましょう。
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