| 健康診断で「肥満」といわれたら、どうすればいいでしょうか。食事制限や運動がめんどうで減量にとり組めなかったり、まちがった方法で無理な減量をしたり……という人もいるかもしれません。適切に体重管理をするには、体重が健康とどのようにかかわるのか、体重管理がなぜたいせつなのかを知る必要があります。体重管理に関するさまざまな疑問に、6月20日発売の『内科医と管理栄養士が健康診断で伝えたかった食事の話』の著者である、内科医・産業医の廣田尚紀さんと管理栄養士の榛葉有希さんが答えます。 |
Q:体重ってそんなに重要?
A:病気の要因や寿命の長さ、生活の質などに大きくかかわります。
私たちは食事からカロリー(エネルギー)をとって生きています。カロリーは体を動かす燃料としての役割のほか、体を作る材料にもなり⑴、いろいろな機能を保つためにも使われています。
カロリーをとりすぎた場合、使われずに余ったカロリーは脂肪などの形で体に貯蔵されるので、カロリーのとりすぎが続くと体脂肪が増え、体重も増えます。ある程度以上体重が増えると「肥満」になります。逆に、食事からとるカロリーが少なすぎて、体を動かしたり、機能を保ったりするのに不足する場合は、その分を補うために体脂肪などの形でためていたカロリーを使います。カロリー摂取が少ない状態が続くと、体脂肪の貯蔵が減り、体重も減ります。ある程度以上体重が減ると「やせ」と呼ばれる状態になります。
肥満とやせは、どちらも健康な状態とはいえません。肥満の人は、血糖(血液中の糖)を調整する能力が落ちる糖尿病や、血中脂質(血液中の脂)を調整する能力が落ちる脂質異常症などの病気にかかりやすく、血圧も高くなりやすくなります。肥満は寿命を縮めることもわかっています。また、肥満が原因でさまざまな病気にかかると、休職や退職などにつながりやすく⑵、生活の質の低下も危惧されます。
一方、やせの人は骨折しやすくなったり、体力(抵抗力)が低下して感染症にかかりやすくなったりします⑶。肥満と同様、やせも寿命を縮めますし、休職や退職をしやすい傾向も見られます。また、やせのお母さんから生まれた赤ちゃんは低体重になりやすく、2500g未満の低出生体重児は、将来、生活習慣病のリスクが高くなります⑷。
このように、体重は健康状態の重要なバロメーターであり、「健康的な体重」を維持すれば、健康や寿命、生活の質にもよい影響が期待できるのです。
Q:健康のためにはとにかくやせればいい?
A:まずは自分の「健康的な体重」を知りましょう。
自分がやせる必要があるかどうか、すなわち肥満かどうかを判定する方法に、BMI(body mass index)があります。BMIは、体格による肥満度の指標であり、体重(㎏)を身長(m)で2回割った数値で表わされます。たとえば、身長170㎝、体重60㎏の人のBMI値は、60(㎏)÷1.7(m)÷1.7(m)=20・8(㎏/m2)となります。日本人の場合、BMI値25以上は肥満、18・5〜24・9が普通、18・5未満はやせとなるので、この例は肥満でもやせでもない健康的な体重であるといえます。
また、BMI値によるやせの判定は年齢によって変わります。たとえば、20歳で身長170㎝、体重55㎏の人はBMI値19・0で、やせに近い普通の範囲です。ところが、同じBMI値19・0でも80歳ならばやせとなるのです。これは、若い人なら問題がないBMI値でも、高齢者では健康を害するリスクが生じやすいからです。
健康のために体重が気になるなら、まずは自分のBMI値を算出してみましょう。BMI値が年齢別の目標値内であれば、肥満でもやせでもない健康的な体重であることがわかります(表1)。BMI値の計算がめんどうなら、表2をごらんください。


身長と年齢別に、やせおよび肥満となる体重の目安をBMI値から計算したもので、どちらにも該当しなければ、健康的な体重だといえます。
健康的な体重とは、病気になりにくく、病気があっても悪くなりにくく、長生きが期待できる体重です。もし肥満であるなら、この範囲が減量の目標になります。「自分にとっては、やせこそが理想的な体形だ」という人もいるかもしれませんが、それは健康的ではないのです。見た目の美しさより、中身、すなわち健康的な体重であることの美しさがもっと知られてほしいと思います。
Q:食べていないのに太るのはなぜ?
A:じつは、自分で思うより食べていますよ。
「食べていないのに太る」「ごはんの量を減らしているのにやせない」という人は少なくありません。しかし、食事内容をくわしく聞き出してみると、主食を減らした分、おかず、間食、甘い飲み物などが増えていて、全体のカロリー摂取量は減っていないことがよくあります。そんなに食べていないと思い込んでいても、実際には食べていて、それを忘れているだけなのです。これは特別なことではなく、だれにでも見られる現象です。
たとえば、病院での栄養指導や食事に関する臨床研究などでは、対象者の記憶を基に食事内容を記録することがありますが、こうした調査方法においては「人は食べたことをかなり忘れている」という現象に留意することがとても重要だとされています⑸。
では、どのくらい忘れるのかというと、1日あたり日本人の男性では摂取カロリーの約10%、女性では約15%を忘れているとの研究報告があります。つまり、実際の摂取カロリーよりも約10〜15%少なく食べていると思っているわけです。さらには、肥満の人はより多く忘れているということも確認されています。
体重管理を行なうさいは、「私たちは食べたことを忘れる」という点を念頭に置き、その上で食べる量を調節するのが理想です。おすすめは毎日の朝食前の体重測定で、体重が増えていれば食べすぎが続いた証拠なので─自分ではそんなに食べていないつもりでも─その日に食べる量を減らすようにします。定期的に体重を測定し、記録することは、肥満の人の減量に効果的であることもわかっています⑹。
Q:食事を変えなくても運動すればやせられる?
A:運動だけでやせるのはむずかしいことです。
やせるためには、体にたまった脂肪をカロリーとして消費しなければなりません。カロリー消費といえば、まず思いつくのは運動なので「食事は変えずに運動でやせよう」と考える人もいるでしょう。
では、運動だけで体脂肪をどれくらい減らせるのでしょうか。体重80㎏で肥満の人が食事をまったく変えずに、ウォーキングだけで体脂肪を5㎏減らしたい場合を考えてみます。体脂肪は1㎏あたり7000kcalに相当するので⑺、5㎏減らすには3万5000kcal消費する必要があります。
運動による消費カロリーは体重によって異なり、体重が重い人のほうが体に重り(負荷)をつけている状態になるため、消費カロリーも大きくなります⑺。体重80㎏の人が1時間のウォーキングで消費するのは240kcal程度なので、約4か月半(145日間)、毎日続ければ約5㎏分(3万4800kcal)を消費できそうで。
とはいえ、実際はそうそう計算どおりにはいかないでしょう。仕事や家事などで忙しい中、毎日1時間の運動を続けることは容易ではないからです。よって、減量を成功させるには運動だけではなく、食事もあわせて気をつけることがすすめられます。
運動には、病気の予防や寿命の延伸、幸福感の向上などの効果があります。また、運動せずに食事を減らすだけだと、筋肉量が減りやすくなるので、適度な運動は必要です。運動はそれだけでやせる手段ではなく、少しカロリーを消費し、同時に体の質をよくしてくれるものなのです。
ちなみに、1時間のウォーキングで消費する240kcalは、ショートケーキ1個分弱と同じです。運動したからといって、食事やおやつの量を増やさないように注意しましょう。
Q:「健康的な体重」よりも少なそうなのに、なぜタレントは元気できれいなの?
A:体重はうそかもしれないし元気に見せているだけかも。
女性タレントには、「やせ」も多くいます。明らかに健康的な体重ではなくても元気できれいに見えるので、同じような体形に憧れる人も多いでしょう。でも、実際は「元気に見せているだけ」かもしれません。
やせの人は、筋力の低下だけでなく、精神的な不調をきたしやすくなることがわかっています(8)。そのようなことがあっても自覚していなかったり、公表していなかったりする人もいるでしょう。海外の研究では、タレントは人間関係やメンタルの問題をかかえやすいとする報告もあります。
また、若いときのやせは将来の病気のリスクを高め、寿命を縮めるおそれもあります(9)。今は元気そうに見えても、将来は健康上の問題が起きる可能性が高い、危うい状態なのです。
タレントの見た目やプロフィールなどを信じすぎるのも問題です。中には体重を少なめに公表している人もいるかもしれませんし、SNSに上げる写真をスリムに見えるように加工することも、今ではとても簡単になりました。見た目の美しさに対する価値観は人それぞれですが、メディアやSNSが見せる、他人の華やかに見える側面や、やせているほうがきれいだとするメッセージに、自分の価値観を引っ張られすぎないほうがよいでしょう。
Q:1日のうちの体重変化が㎏単位という人がいるけれど、いったいなぜ?
A:おもに体内の水分量の変化によるものでしょう。
人間の体の約60%は水分です。つまり、体重の約60%は水分が占めているわけです。1日のうちに筋肉や体脂肪が㎏単位で変化することはありませんが、水分の体への出入りはひんぱんなので、水分量の増減により、体重が㎏単位で変化する場合も見られます。
体の水分量は、時間帯や食事の内容によっても変化します。特に食事に含まれる食塩は、水分を体内に引きつけ、体の中にとどまらせるので、体重にも大きく関係します。食塩をとりすぎて体がむくんでいるときは、体重も増えているのです。
このように、1日から数日間までの短期間における体重変化は水が主体なので、体脂肪や筋肉などの影響は大きくありません。体脂肪や筋肉量の重さの増減による体重変化を把握するには、週や月を単位とした中長期的な期間で見るとよいでしょう。毎日同じ時間帯に体重を測定すると変化がわかりやすいので、おすすめです。
ところで、水分摂取を控えたり、利尿作用のある飲み物を飲んだりして体内の水分量を減らせば、一時的に体重は減るかもしれませんが、それは本質的なダイエットにはなりません。水分は適切な量をとり、食事と運動で少しずつ体脂肪を減らすことがいちばんの方法です。
※体重が減るにつれて消費カロリーも徐々に減るため、実際の体重の減り方はこの計算よりも少なくなる。
参考文献
- 厚生労働省。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書。2024:52-61。
- Houston DK, et al. Overweight and obesity in young and middle age and early retirement: the ARIC study. Obesity (Silver Spring) 2009; 17: 143-149.
- Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clin Nutr 2022; 41: 958-989.
- Yoshii K, et al. Association between birth weight and prevalence of cardiovascular disease and other lifestyle-related diseases among the Japanese population: The JPHC-NEXT Study. J Epidemiol 2024; 34: 307-315.
- 厚生労働省。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書。2024:24-27。
- 日本肥満学会。「肥満症診療ガイドライン2022」。ライフサイエンス出版。2022:64-66。
- 厚生労働省。健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023:1、4、35-36。
- Iizuka K, et al. Young Japanese underweight women with “Cinderella Weight” are prone to malnutrition, including vitamin deficiencies. Nutrients 2023; 15: 2216.
- 厚生労働省。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書。2024:54-61。
| 栄養と料理2025年7月号より|編集協力/田中美穂 |
廣田尚紀(ひろた なおき)
広田内科クリニック副院長・産業医。本書のおもな本文・コラムを担当。
内科医・医療法人社団 広田内科クリニック 新宿せたがや産業医事務所代表・(一社)日本職域栄養協会 理事など。東京慈恵会医科大学(勤務医)・東京女子医科大学(勤務医)、東京大学研究員(栄養疫学分野 研究員)などを経て現職。専門は糖尿病をはじめとする内科学全般および内科学における栄養分野。日々内科診療を行いながら、産業医としても働く人々の健康と向き合っている。博士(医学)・日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医・日本内科学会認定 総合内科専門医・産業医(産業医学ディプロマ)など。

榛葉有希(しんば ゆうき)
管理栄養士・静岡県立大学助教。おもに本書の「栄養相談の部屋から」を担当。
日本職域栄養協会理事、庵原薬局栄養指導担当。静岡県立大学食品栄養科学卒業後、研究と並行した、病院や特定保健指導での食事指導を経て現職。専門は臨床栄養学。研究と学生教育のかたわら、栄養指導の現場で健康管理や食事に関する疑問に日々向き合っている。博士(食品栄養科学)・病態栄養専門管理栄養士・健康運動指導士など。

監修 佐々木敏(ささき さとし)|東京大学名誉教授・日本栄養大学客員教授。
【6月20日発売予定の新刊情報】
健康診断でよく指摘されるテーマについて、「専門家の当たり前」をわかりやすく解説する書籍です。
■廣田尚紀・榛葉有希/著
■978-4-7895-5468ー8
■四六判 296ページ
■定価:1,760円(本体1,600円+税)
■発行年月:2026年6月
