睡眠は体のリカバリーに重要。寝苦しい季節の対策は?
私たちの体と心は、日中の活動でストレスや疲労を感じています。その疲労をリセットしないと、翌日をベストな状態で迎えることができません。そのためにも重要なプロセスが「睡眠」です。
入眠直後の深い睡眠で分泌(ぶんぴつ)される成長ホルモンが、栄養を吸収し傷ついた細胞を修復し、肉体的な疲労が回復されます。また、自律神経のバランスが整えられて、精神的な疲労も軽減され、情報の整理も行なわれます。つまり、睡眠は単なる「休息」ではなく、明日を生きるための積極的な「リカバリー(回復)タイム」なのです。

しかし夏場は、寝苦しい日が多く、睡眠の質が低下しがちです。特に、室温や湿度が高い部屋では、体内に熱がこもりやすく、寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めてしまったりすることもあります。このような睡眠では、しっかりと疲れがとれないため、翌日の集中力が下がってしまったり、倦怠(けんたい)感が生じたりと、その日のパフォーマンスが落ちるだけでなく、疲れが溜まって夏バテを引き起こすことになりかねません。
こうならないためには、エアコンをじょうずに使って室温26℃程度、湿度50%程度に保つなど、環境を整えることが基本です。とはいえ、自分自身を「眠るモード」へと切りかえていくこともたいせつです。そのカギを握るのが、夕方から夜にかけての過ごし方です。
夜の過ごし方は、翌日の体調の準備
多くの人は、朝起きた瞬間からその日一日が始まると考えがちです。しかし、健康管理やパフォーマンス向上の視点から見ると、じつは「前日の夜の過ごし方から、翌日の一日がすでに始まっている」といっても過言ではありません。夜にどのような準備をしたかによって、翌朝の目覚めのよさや、日中の体調やパフォーマンスが決まるからです。
日中、活発に動くために、私たちの自律神経は交感神経が優位になっている時間が長く、ある意味、戦闘状態にあります。一方、夜間はというと副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせて休息モードへと移行させる必要があります。この切りかえがスムーズに行なわれないと、ふとんに入っても脳が冴(さ)えてしまい、深い睡眠を得ることができません。
夜の時間を単に一日の終わりとして漫然と過ごすのではなく、翌日の体調を整えるための「準備の時間」ととらえ直してみましょう。夜、寝るまでの数時間をどのようにデザインするかで、翌日のパフォーマンスが変わります。
夕食・入浴・睡眠を一つの流れで考える
では、具体的にどのような夜の過ごし方が理想的なのでしょうか。ここで提案したいのが、「夕食」「入浴」「睡眠」をそれぞれ独立したイベントとしてとらえるのではなく、一つの連動した「一連の流れ(ルーティン)」としてパッケージ化することです。

食事によって得た食物を胃で消化し、腸で吸収した栄養は血液に入ります。そして入浴によって血行が促進され、体のすみずみまで運ばれます。また、人は夜に体温が下がるようにセットされています。体温が下がる夜に入浴することで、体温が一時的に上昇しますが、血管が拡張して熱放散するのでスムーズに下がります。それが人間の持つ体温のリズムを整えてよい入眠へとつながり、成長ホルモンを多く分泌できる深い睡眠へと導きます。
実際、消化活動には約2〜3時間かかるため、胃の中に食べ物が残ったまま眠ると、就寝中も内臓が働き続けることになり、睡眠の質は低下します。また、入浴によって一時的に上がった体温が下がっていくタイミングが、最も入眠しやすい時間帯です。このように、夕食・入浴・睡眠のタイミングを連動させることで、体が自然と深い眠りへと導かれるようになります。
理想的なタイムスケジュールとしては、就寝の「3時間前」までに夕食をすませ、就寝の「90分前」に入浴を終えるという流れがあげられます。
入浴が眠りに関係する理由
なぜ、入浴が睡眠の質を左右するのでしょうか。その理由は、人間の体温調節のメカニズムにあります。
人間の体温には、手足などの表面温度である「皮膚温」と、脳や内臓などの体の中心部の温度である「深部体温」の2種類があります。私たちは、深部体温が下がっていくと眠気を感じます。赤ちゃんが眠くなると手足が熱くなるのは、手足の毛細血管を広げて熱を体外に放出し、深部体温を下げようとしているからです。
お風呂につかると、温熱作用によって全身の血行がよくなり、一時的に深部体温が上がります。体には上がった深部体温を元に戻そう(下げよう)とする「恒常性(ホメオスタシス)」が働くため、入浴後は熱の放出(熱放散)が始まります。湯船にしっかりつかったとき、深部体温は約90分かけて下がり、入浴前よりもさらに一段低い状態になります。この「深部体温が大きく下がるタイミング」こそが、最もスムーズに入眠しやすく、かつ深いノンレム睡眠を得られる時間帯になります。

この効果は、トップアスリートのリカバリー戦略としても実証されています。過酷なトレーニングを行なうアスリートたちは、練習直後に汗を流すためのシャワーを浴びていますが、それとは別に、食事をしっかりとり、就寝前にはかならず湯船につかり、よい睡眠をとることで疲労回復し、翌日のパフォーマンスへとつなげています。日々忙しく働く現代人も、いわば日常というフィールドで戦うアスリートです。シャワーだけですませず、湯船を活用することが回復の近道となります。
夕食が遅い日、疲れている日の現実的な調整
しかし、毎日が理想的なスケジュールどおりに進むわけではありません。仕事で帰宅が遅くなり、夕食が深夜になってしまうこともあります。また、心身ともにクタクタで「今すぐベッドに倒れ込みたい」という日もあるでしょう。そのような「現実的なピンチ」の日にこそ、入浴を賢く使った調整が必要です。
まず、夕食が遅くなってしまった日は、極力胃腸に負担をかけないメニューを選びます。脂っこいものや肉類は消化に時間がかかるため避け、うどんや雑炊、スープ、豆腐など、温かくて「消化のよいもの」を「軽めに」とるのが鉄則です。

そして、疲れて帰宅した日ほど、「シャワーだけですませて早く寝よう」と考えがちですが、じつはそれは逆効果になることがあります。シャワーだけでは表面的なよごれは落ちても、深部体温のメリハリは作れないため、深い睡眠に入りにくく、また、血流が滞ると、酸素や栄養素が充分に行きわたらず、組織の修復も進みにくくなります。その結果、翌朝に疲れが残ってしまうことになります。
そんな日こそ、短時間でも湯船につかりましょう。「湯船につかるのはめんどう」と感じるかもしれませんが、5〜10分程度でもお湯に身をゆだねるだけで、血液循環が促進され、自律神経もリラックスモードに切りかわります。結果的に短時間の睡眠でも効率よく疲労を回復させることができます。「疲れているからお風呂をスキップする」のではなく、「疲れているからこそ、お風呂を回復の道具として使う」という意識の転換がたいせつです。
石川泰弘さんが実践する入浴ルーティンと注意点
ここで、筆者が日々実践している、睡眠の質を最大化するための入浴ルーティンをご紹介します。
基本のセッティングは、「39〜40℃の心地よいお湯に、20分程度つかる」というものです。
41℃を超える熱すぎるお湯は、交感神経を刺激して体を興奮状態にしてしまうため、就寝前には不向きです。39〜40℃のじんわりと温かさを感じる程度のお湯に20分ほど身を浸すことで、副交感神経が優位になり、心身の緊張が心地よくときほぐされていきます。
入浴スタイルは、肩までつかる全身浴です。水圧の効果もあり全身に血液が効率よく流れます。また、血液循環と脱水を考慮して冷たい水をコップ1杯程度は飲みます。

カフェインは覚醒効果があるので、夕方以降はノンカフェインの麦茶やハーブティーを飲みます。また、夕飯では食物繊維を意識的にとります。腸の調子がよいと一日が快適に過ごせるためです。
食事、入浴、そして睡眠。この一連の流れを少しだけ意識して整えることで、体は驚くほど軽くなり、翌日のパフォーマンスは見違えるように向上するはずです。今夜からぜひ、自分をいたわる“ルーティン”をとり入れてみてください。
◎プロフィール
石川泰弘(いしかわ・やすひろ)
日本栄養大学特任教授、博士(スポーツ健康科学)。温泉入浴指導員、睡眠改善インストラクターの資格を持ち、「お風呂教授」としてテレビ・雑誌・Webなど多くのメディアで活躍。入浴と睡眠によるリカバリーを研究し、著書に『たった一晩で疲れをリセットする睡眠術』(日本文芸社)などがある。
