運動、食事、研究…… 94歳、栄養学者が今考えていること 

健康 栄養 Book

目次


    「私が見本にならなければいけない」という使命感をもって、栄養学に基づいた生活を実践し、90歳を超えた今も、日本栄養大学副学長、日本栄養大学 栄養科学研究所所長として研究を続ける香川靖雄さん。

    6月27日に94歳の誕生日を迎えた香川教授の、運動習慣、食習慣、そして若い学生たちへのメッセージをお聞きしました。 

    *編集部注:本インタビューは、香川靖雄さんの誕生日前に実施したものです。

    94歳になっても、週3日、片道2時間かけて大学へ

    ――香川先生、まもなく94歳のお誕生日を迎えられるということで、おめでとうございます。書籍『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません! 生涯現役のための健康長寿生活』(日本栄養大学出版部)をお書きになった2024年から2年ほど経ちました。近況をお聞かせください。 

    香川 ありがとうございます。今日はこの取材のあとに動画を収録します。それから東京大学に移動して、夜9時ごろまで同窓会の会議に参加する予定です。帰宅するには電車で2時間くらいかかりますから、今日はホテルに泊まろうと思っています。今も週に3日くらいは大学に通っていますから、本を出版したころとあまり変わらない生活を送っていますよ。 

     誕生日当日は、「さかど葉酸プロジェクト」のイベントが坂戸市の文化施設「オルモ」であります。「『葉酸』のチカラで健康寿命を延ばそう!」というテーマで認知症や脳卒中等のリスクを低減させる効果がある葉酸のことや、半年間のプロジェクトの内容について坂戸市の皆さんにご説明する予定です。今年は毎年行なっている栄養指導、運動指導、料理教室、遺伝子検査等に加えて、「ベジメータ®️」を使って野菜の摂取量を調べることになっています。これは、皮膚に蓄積したカロテノイド(野菜等に含まれる色素成分)を、指先を10秒ほどはさむだけで測定することができる装置です。

    ――今も週に3日も大学に通っていらっしゃるのですね。書籍には毎日の運動についての記述もありました。大学に通うだけでも相当な歩数になると思いますが、運動習慣について教えてください。

    香川 自宅から大学を往復する日は、平均すると6000歩くらいで、多いときは1万歩近くになることもあります。ちなみに、一般的に「運動はいいもの」ととらえられていますが、激しい運動は短命につながるというデータもあります。いずれにしても、私のような高齢者にとっても過度な運動はリスクになりますから、ほどほどがいちばんです。

     歩くこと以外の運動としては、自転車で買い物に出かけたり、自宅でテレビを観ながらエアロバイクをしたり、ダンベルを使った筋力トレーニングをしていますね。自宅近くのプール施設が閉館してしまったので今は泳いでいませんが、水泳もコロナ禍前までは習慣にしていました。

     体力や水分量の低下している高齢者は若い人に比べて熱中症のリスクも高まりますので、夏本番を迎える前に積極的に運動して「暑熱順化」するのもおすすめです。運動後にはたんぱく質と糖質をとるようにしてください。私は暑さ対策として、ファンがついた作業着や持ち運べるサイズの小型の扇風機も活用しています。

    香川氏が手にしているのは、暑い時期はいつも持ち歩いているという充電式の小型ファン。

    栄養学者は毎日なにを食べているのか 

    ――運動習慣に続いて、食習慣についても教えてください 

    香川 私の食事の特徴の1つは、朝しっかりと食べることです。朝と昼は軽めで、夕食が重めの人も多いと思います。ただ、特に高齢者の場合、食べる量そのものが減ってしまうことに加えて、若い人に比べて吸収率が低下しますので、1日3食の中でバランスをとるのではなく、毎回の食事でバランスをとることもたいせつです。たとえば、夕食に偏った摂取をすると、24時間の骨格筋合成速度が落ちるというデータもあります。

     バランスのよい食事をするさいに参考になるのが、「四群点数法」()です。「卵、牛乳・乳製品」(第1群)、「魚介類、肉、豆・豆製品」(第2群)、「野菜類、芋類、果物」(第3群)、「穀類、砂糖、油脂、嗜好品、調味料」(第4群)の4つのグループの点数を意識しながら食事をするようにしてみてください。

    図 四群点数法(1日20点とる場合の目安量) 

    出典:『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!生涯現役のための健康長寿生活』(日本栄養大学出版部)

     先ほど野菜の摂取量のお話をしましたが、厚生労働省が推進する「健康日本21」(第三次)の1日の野菜摂取量の目標値は350gであるのに対して、日本人の平均は258.7gとなっており(令和6年国民健康・栄養調査)、100g近く足りていないことになります。とはいえ、350gの野菜というのは、緑黄色野菜を両手1杯、その他の野菜を両手2杯分程度であり、1日の食事から摂取するのは簡単ではありませんので、私は野菜ジュースを活用しています。

     野菜に加えて、遺伝的に多くの日本人に不足しがちなのが、魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)です。そのため、大学で昼食をすませるときは、学生食堂の魚中心のA定食を食べるようにしています。魚は1日100gを目安に摂取するとよいでしょう。「サバ」や「イワシ」といった青魚にはDHAのほかに、生活習慣病のリスク低減に役立つEPA(エイコサペンタエン酸)も含まれています。

    ※ EPAはIPAと同義。食品成分表ではイコサペンタエン酸(IPA)とも表記される。
    話題の参考資料をとなると、すかさずスマホから該当スライドを探し出して見せてくれる香川氏。

    これからの時代を担う若い人たちに伝えたいこと 

    ――先生は日本栄養大学の副学長だけでなく、日本栄養大学 栄養科学研究所の所長も務められています。その原動力はどこにあるのでしょうか。

    香川 社会のお役に立ちたいという思いに加えて、日本の研究に対しての危機感も原動力の1つです。たとえば、自然科学分野の論文数の第1位は中国で、2位はアメリカ、3位はインドとなっています。かつてはアメリカに次いで第2位だった日本は、現在第5位。注目論文数ランキングにおいては、残念ながらベスト10にすら入っていません。

     少し昔話をすると、私たちが子どものころの日本の国土は、戦災によって文字通り灰燼(かいじん)に帰していました。日本に残された財産といえば頭脳だけだと当時の日本人の多くはわかっていて、必死に研究しました。

     今は豊かになったこともあって、そうした危機感がないのは仕方のないことかもしれません。ただ、復興は果たしたとはいえ、日本は災害も多く、カロリーベースの食料自給率は40%弱となっており、頭脳がたいせつなのは私が若いころと同じではないでしょうか。 

     ですので、お節介かもしれませんが、少しでも研究意欲を高めてほしいという思いから、ときどき、最先端の論文に解説をつけた資料を大学院生に配るようにしています。また、率先垂範もたいせつですから、最近はAIも活用して、欧文の論文の執筆を続けています。

     幸い、浅野嘉久先生からご寄付いただいたことで、栄養研究所の建て替えも進んでおり、研究者の皆さんにとって理想的な環境が整いつつあります。歳はとっていますが、人生においていちばんといえるくらい研究意欲は高まっていますので、これからも若い人たちのお役に立てるよう研究を続けていきたいと思っています。

    *編集部注:記事内で紹介している誕生日当日のイベントは、台風の影響により延期となりました。

     

    [プロフィール]かがわやすお●1932年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業、聖路加国際病院、東京大学医学部助手、信州大学医学部教授、米国コーネル大学客員教授、自治医科大学教授、旧女子栄養大学大学院教授を経て、現在、自治医科大学名誉教授、日本栄養大学副学長。専門は生化学・分子栄養学・人体栄養学。おもな著書に『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』『科学が証明する新・朝食のすすめ』『香川靖雄教授のやさしい栄養学』(以上、日本栄養大学出版部)、『老化と生活習慣』『生活習慣病を防ぐ』(以上、岩波書店)などがある。
    *香川靖雄さんのFacebookページ

    取材・文/池口祥司 撮影/編集部

    92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!生涯現役のための健康長寿生活

    ■香川 靖雄/著
    ■978-4-7895-5367-4
    ■四六判 128㎜×188㎜ 192ページ
    ■定価:1,540円(本体1,400円+税)
    ■発行年月:2024年11月

    運動、食事、研究…… 94歳、栄養学者が今考えていること 
    https://www.eiyotoryori-plus.com/webmagazine/book-webmagazine/13402/
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