大阪・関西万博編「世界の朝ごはんめぐり」Webマガ版2025年10月号

文と写真/岡本啓史(国際教育家)

日本語の関西での方言で「おはよう」を意味する言葉。

今回はいつもの「世界の朝ごはんめぐり」から少し離れて、特別編をお届けします。舞台は「大阪・関西万博」。「世界の朝ごはんめぐり」の執筆者であり、5大陸を渡り歩いて食と文化を体験してきた私が、独自の視点(時々関西弁も混じりつつ)で歩いてきました。

結論からいいます。

「コモンズって、なんのこっちゃ?」というかたのために説明すると、複数の国・地域が合同で出展する複合パビリオンのこと。AからFまで合計6つの「コモンズ」があり、約100の国・地域が集まっています。個別パビリオンのように予約が必要な場合が少なく、気軽にふらっと立ち寄れるのが大きな魅力。

そんな疑問に答えるため、今回は、

  • 1.  万博の食事場をチラ見
  • 2.  海外パビリオンの人とつながる魔法のひとこと
  • 3.  万博を通じて世界とつながる楽しみ方

この3本立てでお届けするで!

短時間ですべてのコモンズをまわることを目標にしたものの、世界の国や地域のパビリオンの横を通るたびに、「おっ、この国のあのごはんが食べれるんかな?」と、どんな食事が提供されているか(されていないか)には興味がありました。しかし現実はなかなかきびしいもの。

会場内の人気パビリオンやレストランは炎天下で長蛇の列。値段も2,000円超えが多く、世界の屋台で楽しめる「安くて早くておいしい」感は薄め。外側のブースに並ぶのは甘いデザート系が多く、おなかを満たしたい人には少しもの足りない印象です。


それでも、探せば手が届きやすい穴場もあったで! たとえば、マレーシアの郷土料理「ナシレマ(Nasi Lemak)」はココナッツミルクで炊いたごはんに、サンバルソース、揚げ小魚、ピーナッツ、ゆで卵などを添える一皿です。香りは現地ほど強くなかったものの、1,000円台で提供され、テイクアウトなら待ち時間もほとんどなし。効率よく味わうにはぴったりでした(参考までに、過去のマレーシアの朝ごはんめぐりのリンクはこちら)。

もう一つのおすすめは、ベトナムのバインミー。ほとんど並ばずに買え、味も現地で食べた記憶を呼び起こすクオリティ。比較的手ごろな価格で、旅先で食べた記憶がよみがえりました。

一つの限られた場所に世界中の国や地域が集結している万博。

人口密度が高い大阪にあること、行列を作りがちな日本人が集まれば、あちこちで行列ができ上がります。しかし時間は限られているので、すべてを楽しむのはむずかしい。調理や食べる作業に時間がかかる着席スタイルの食事ならなおさらや。

万博会場の駅前や会場内にはコンビニもあり、食事がストレスになるくらいならコンビニを活用しながらパビリオンをまわるというのも一つの方法かもしれません(駅前のコンビニでは夜になるとおにぎりが半額で買えたので、帰宅までに空腹で倒れそうになることはない)。

また、万博に何度も訪問している人のくわしいブログや食レポ、万博関連の雑誌などを見れば、それぞれの具体的な情報が閲覧できます。それでも、実際に一度でも万博に訪れて歩いてみると、ネットや書物で見た情報とは違うリアルな感覚が味わえます。地図を見ただけではわからないごちゃごちゃした風景や、異文化や言語が混ざり合った状況を体感すると、世界を旅したときのような感覚を思い出します。

一方で、コモンズ内の多くは食事の提供がほぼなく、軽食や飲み物程度。理由をたずねると「スペース不足」「手続きの煩雑さ」「食材調達や調理人員の確保のむずかしさ」など、現場の制約の中での苦労が伝わってきました。

つまり、万博での食体験は「行列や高価格も込みでなにがなんでも人気メニューを楽しむんや」「あんまこだわらず穴場を見つけてサクッと味わうで」「会場内外にあるコンビニで空腹を満たしとこか」の3択になるだろうか、と考えました。

食べ物以上におもしろいのが「人との出会いとつながり」。世界じゅうから人々が集まる万博は、世界とつながる最高の場所といえます。「コモンズ」の出展国・地域総数は約100にのぼるので、万博に集まった国全体の約6割を占める重要なエリア。そこには現地スタッフや関係者が出入りしています。ここを訪れた私の最大の収穫は、彼ら・彼女らとの出会いでした。

そんな「コモンズ」制覇に向けて、現地から来日しているスタッフに徹底的に話しかけてみました(コモンズでは現地スタッフではなく日本人のボランティアのみ、または無人のブースの国・地域もある)。とはいえ、いきなり見知らぬ人と仲よくなるのは、ちょっとむずかしいですよね。そこで私が考えた対策は以下の3つ。

  • 1 現地の言葉を調べてあいさつ。
  • 2 魔法の質問(後述)でグッと距離を縮める
  • 3 今後のつながりのタネをまいて、連絡先を聞く

まずは①について。

万博のスタッフをしている人は、最低限の英語が話せる人がほとんど。そんな中でも、現地語で話しかけると、グッと距離が縮まります(そのあとは英語に戻してもいい)。

そして②の魔法の質問とは、こちら。

この一言で相手の目が輝きます。「うちの国の朝ごはん?それなら…」と、そこから話がどんどん弾むのです。日本人にとっても、自分の朝ごはんを聞かれたら少し考えますよね。それだけに、会話の入口として絶妙なのです。

絶え間なく押し寄せる客の対応だけでなく、①と②の質問があれば、少なくとも相手に興味を示していることが、伝えられるのかもしれません。

最後に締めの③。
私はこのWeb連載の前に、『栄養と料理』の月刊誌で連載されていた同コーナーの執筆担当をしたことが何回かありました。その雑誌を見せながら、いろいろな国や地域の人をインタビューして朝ごはんを紹介するという企画の紹介をして、もし興味があれば協力してほしい旨を伝えてみました。

この企画の紹介をしたときの相手の反応はとてもよいもので、100%の確率で「その企画、ええなぁ!興味あるで!」といってくれました。

いずれも、万博の仕事で忙しく働いている人々。そして、半日で約30か国の人とSNSやメールの連絡先を交換するという人生初の快挙を成し遂げることができました。

連絡先を交換した人々の国とは、カーボベルデ、ブータン、モンテネグロ、スリナム、トリニダード・トバゴ、セーシェル、東ティモール、スロバキア、サンマリノ、セントルシア、ルワンダ、タンザニアなど、一般的に旅行ではなかなか訪れにくい国ばかりです。過去のギニア共和国の朝ごはんで紹介した「残りの『ギニア』国家(赤道ギニア、パプアニューギニア、ギニアビサウ)」ともつながることができました。ここでの出会いは、未来の「世界の朝ごはんめぐり」企画の新しい種になることでしょう。

中でも、万博会場に着くまでの電車で出会った赤道ギニア(アフリカで唯一スペイン語を公用語としている国)のスタッフとは、比較的長い時間話すことができ、アフリカ人とスペイン語で会話するという状況は私にとって新鮮でもあり、忘れられない出来事となりました。

「朝ごはん」というささやかな話題が、国や文化を超えて人をつなげてくれる。その力を改めて実感しました。

今回、大阪・関西万博での私のミッションは、「食をチラ見しながら、『コモンズ』全訪問で”朝ごはん企画”の協力者を探すこと」。結果は大成功! 出会った人たち全員が「協力したい」と快く答えてくれました(実際に具体的な形にするときは、返事が返ってこないなどの国民性が出てくることもあるかもしれませんが)。

そこで改めて感じたのは、これ。

「万博の楽しみ方は“続きがある”ことやで!気になった国の料理は、日本や現地で探してみる。万博はゴールやなくて、世界への入口や!」

万博はきっかけに過ぎません。その後に自分がどう動くかで、世界はどんどん広がっていきます。

特に、コモンズに参加しているような国や地域のレストランは、日本でも見つけにくいもの。万博で興味を持ったら、次は現地に行ってみるのも一興だと思います。もちろん、現地へ行くためには相応の資金、情報収集・現地の言葉の学習など、さまざまな準備が必要ですが、その準備も楽しみの一つ。そして、ときにはおなかをこわすことがあるかもしれませんが、現地を訪れたらその土地の食文化を味わうことも旅の醍醐味といえます。

参考までに、私が「死ぬまでにもう一度現地で食べたいごはんリスト」から一部をご紹介します。

  • タイ北部:カオソーイ
  • モンゴル:ツイヴァン(焼きうどん風)
  • モザンビーク:マタパ
  • メキシコ:モレ
  • ペルー:ロモ・サルタード
  • チリ:パステル・デ・チョクロ
  • ブラジル:フェイジョアーダ
  • エジプト:クシャリ
  • ケニア:ククパカ
  • ポルトガル:バカリャウ・ア・ブラス(干し鱈の料理)

少しでも「なんやそれ? 興味あるわ!」という好奇心をくすぐることになれば幸いです。なお、私が神戸で運営しているグローバル学び舎3L―ミエルでも、異文化紹介企画として、上記にあげたような料理を提供することがあるので、興味のあるかたはサイト上のこちらのページをご参照ください。

 大阪・関西万博は、食だけを目的にすると少しもの足りないかもしれんけど、世界と繋がる絶好のチャンスの場! 

以下にまとめると、

  • 万博の食は行列&高価格。でも探せば穴場あるで(ナシレマ・バインミーなど)
  • コモンズめぐりは予約不要で約100の国・地域の人々と出会えるで
  • 魔法の質問「どんな朝ごはん?」で会話が弾み、半日で30か国とつながったで
  • 万博はゴールやなく、世界への入口や。

「朝ごはん」という小さな問いかけが、国や文化を超える会話の入口になります。遠く離れた国の文化や暮らし、そして“その国の朝の味”を語ってくれる人たち。その笑顔の奥には、海や砂漠、森や街の匂いまで詰まっているように感じました。次はこの会場で出会っただれかが、自分の国の朝ごはんの話題を日本に届けてくれるかもしれません。

そして次の万博の舞台、サウジアラビア・リヤドの準備は始まっています。コモンズのスタッフと話していた時間が長かったため、いろいろな様子が見えました。サウジアラビア館の人がそれぞれのコモンズの国・地域の担当者にあいさつに来て、次回の万博のためにいっしょに話をしようといっていました。5年後の大きな祭典のために、すでに世界がつながっています。激動の時代、世界は変わり続ける。それでも、変わらないものもあるのです。

帰り道、3万歩を歩ききった足の疲れを感じながら空を見上げると、ドローンのイルミネーションが。その光の下で、改めて強く思いました。

One World, One Planet. 一つの世界。一つのプラネット

以上、番外編でした。

次回はどの国の朝ごはんが登場するか、どんなつながりがあるか、どうぞお楽しみに!

【筆者プロフィール】岡本啓史(おかもと・ひろし)●国際教育家、生涯学習者、パフォーマー。これまで国連やJICA等で5大陸・45カ国の教育支援を実施。ダンサー、役者、料理人、教師の経歴も持つ。学びに関するブログを5言語で執筆し、ライフスキル教育、講演活動、グローバル学び舎3L-ミエル運営など、日本内外で国際理解・幅広い学びやウェルビーイングの促進に注力中。著書『なりたい自分との出会い方:世界に飛び出したボクが伝えたいこと』(岩波書店)『せかいのあいさつ』全3巻(童心社)監修。サイト/SNS:https://linktr.ee/mdhiro

栄養と料理2025年9月号