しょうゆの色は麹カビが作っている⁉
しょうゆは、日本の代表的な調味料で、味わいや色の異なるものがあり、多くの料理に使用されています。
しょうゆは、まず、大豆と小麦に微生物の麴(こうじ)カビ(種麴)を繁殖させて作ったしょうゆ麴を、原料となる米、小麦、大豆などの穀物に添加し、さらに食塩を加えて発酵・熟成させます。一定期間発酵・熟成させたあとに、それを圧搾し液体部分をとり出すと「生揚げしょうゆ」ができ上ります。さらに、「火入れ」と呼ばれる加熱処理をすると、一般的なしょうゆができます(図)。
しょうゆには、いくつかの種類がありますが、皆さんは、白しょうゆをご存じですか?
普通のしょうゆは黒いのですが、白しょうゆは白い色をしています。しょうゆの製造工程の発酵・熟成中には、麴に含まれるカビ(麴カビ)の持っている酵素によりさまざまな変化が起きています。原料の米、小麦、大豆に含まれるでんぷんは、でんぷん分解酵素による作用で、グルコース(ブドウ糖)に分解されます。原料中のたんぱく質は、たんぱく質分解酵素による作用で、ペプチドや遊離アミノ酸に分解されます。この中で、遊離アミノ酸とグルコースは、さらにアミノカルボニル反応(褐変反応)が起こり、しょうゆに特徴的な香り物質が生じ、色が茶色に変わっていきます。
しょうゆの発酵・熟成期間が長くなると、香りも豊かになると同時に、色が濃くなって黒くなります。濃口(こいくち)しょうゆの発酵・熟成期間は通常6か月ほどですが、白しょうゆを造るためには原料の小麦の割合を多くし、発酵・熟成期間を短くします。常温で1か月間、低温では3か月間で製造することで、白い色のしょうゆを製造できるのです。
しょうゆの特徴を知って
料理に生かそう
日本では、約1060社がしょうゆを製造しています。製品としては、おもに、濃口しょうゆ、淡口(うすくち)しょうゆ、溜まりしょうゆ、再仕込みしょうゆ(甘露しょうゆ)、白しょうゆの5種類が製造されています(表)。
「濃口しょうゆ」は、最も一般的なしょうゆで、「普通しょうゆ」と呼ばれています。大豆と小麦を同量用いて麴を作ります。製品には、芳(かんば)ばしい香りがあり、色も濃いのが特徴です。「淡口しょうゆ」は、色が薄くさらっとしているのが特徴です。
塩分を高くすることで褐変反応が起こりにくくなるため、色が薄くなります。また、原料の大豆の量に対して米麴の量を多めにすることで甘味を強くしています。
「溜まりしょうゆ」は、大豆を主原料とした麴を作るため、香りは弱いものの濃厚な味がします。この特徴を生かして刺し身しょうゆや米菓に使用されます。
「再仕込みしょうゆ」は、濃口しょうゆに比べて色や味わいが濃いのが特徴です。
また、「白しょうゆ」の色は淡口しょうゆよりも薄く、麴臭が強く甘いのが特徴です。原料となる大豆の量に対する麴(米麴や小麦麴)の量を多くすると甘さが強くなります。
このように、しょうゆはその特徴を生かしていろいろな料理に使われています。食べ物との相性を考えて、いろいろな種類のしょうゆを試してみてください。
★次回は、「長期保存できる牛乳って味わいは悪くならないの?」の予定です。
『栄養と料理』2020年~2023年に掲載し、好評だった西村敏英さんの連載「『おいしさ』を科学する」。 本誌に引き続きWebマガで連載!
食べ物の不思議 おいしさを科学する
調理や保存方法など、さまざまな要因によって化学反応を起こす食べ物。その変化は「おいしさ」に
どのような影響を及ぼしているのでしょうか。
おいしく感じるしくみを科学的に解説します。
文 西村敏英 女子栄養大学食品栄養学研究室教授
え/飯山和哉
にしむらとしひで●農学博士。研究分野は「食肉と健康」、「食べ物のおいしさ」など。食べ物のおいしさの要因の一つである「コク」を定義し、「見える化(客観的評価)」と定義の「国際化」にかかわる研究活動を行なう。