チリ・イースター島(ラパヌイ)
文と写真/岡本啓史(国際教育家)
Iorana
チリ領イースター島(ラパヌイ)で朝によく聞くあいさつは「イオラナ(Iorana)」。
先住民ラパヌイ語で「こんにちは」と「さようなら」の両方を意味します。
この言葉は現在、観光の場面や音楽の歌詞などでも広く使われ、次のように応用されます。
・Iorana koe:(1人に)「こんにちは」
・Iorana korua:(複数に)「こんにちは」
・Iorana pehe koe:こんにちは、元気ですか?
ただし、島の年長者によると「イオラナ」は比較的新しい言葉で、より伝統的には「Pehe koe(元気?)」が使われてきたそうです。相手によってあいさつの言葉が変わるのは、家族や友人とのつながりをたいせつにするラパヌイの文化をよく表わしています。
モアイだけじゃない。イースター島が教えてくれる文明と食のつながり
さて、名前は聞いたことがある人が多いかもしれませんが、イースター島について、どのくらい知っていますか? 多くの人は縦長のモアイ像を思いつくかもしれませんが、場所や文化など、それ以外の情報まではあまり知られていません。
この島は南太平洋、ポリネシアの最東端に位置しています。チリの特別自治領で、本土からは約3800kmも離れており、世界でも最も孤立した島の1つとして知られています。面積約180km²(北海道の利尻島と同じくらい)の小さな島に、約900〜1000体ものモアイ像が点在しています。中には高さ20m、重さ200トンに達する巨大なものもあります。しかし、これらがなぜ、どのように作られたのかは、いまだに多くが謎のままです。
先住民の言葉で「輝ける偉大な島」と呼ばれるラパヌイ。その魅力を、朝ごはんを通して紹介していきます。

イースター島の海岸沿いのモアイ像(筆者が2014年に撮影)
暮らしから見えてくる、イースター島のリアルな日常
今回ご紹介するのは、チリ北部出身の Broderik Callejas Burgos(通称ブロ)さん。彼はイースター島に移住して7か月、現在はスーパーマーケットに商品を供給する倉庫管理の仕事をしています。
仕事以外の時間は、島で覚えたバイクで移動し、ジムで体を動かしながら、ラパヌイの暮らしに少しずつなじんでいるそうです。また、男女問わず「体を動かすこと」をたいせつにする文化があり、いくつものジムがあります。彼もジムで汗を流し、日々のリズムを整えています。そして、仕事の疲れを癒してくれるのは、ラパヌイならではのおいしい飲み物と食べ物だそうです。

ブロさんいわく、「家族や友人と離れて孤島で暮らすのは楽ではないけれど、島の人々はとても温かく迎えてくれたので楽しい」とのこと。
彼が特に驚いたのは、家や車に鍵をかけない文化。窓もあけたままにしているのは、強い共同体意識と安心感があるからです。ブロさんがバイクにチェーンと鍵を頑丈にかけたときも、それを見た人たちはやさしく笑いながら、「ここでは盗む人はいないから、一生使わなくていいよ」といわれたそうです。
また、島には独特のさわやかな香りがあり、海辺なのに魚や港特有のにおいがしないところも魅力だといいます。

ブロさん(左から2番目)とラパヌイの友人たち。 親指と小指を見せるのはラパヌイに根づいたジェスチャー(日本のピースのようなもの)。
朝食から読み解くラパヌイの食文化
今回の朝食は、ブロさんが島の友人たちといっしょに作ってくれた、ラパヌイの朝ごはんです。
これから紹介する料理は単なる食事ではなく、島の歴史や自然、人々の温かさを感じることのできる体験そのものです。ブロさんがラパヌイの食文化を紹介したいと友人たちに話したところ、快く「じゃあみんなで作って食べよう」ということになったそうです。

この日、みんなで作ったラパヌイの朝ごはんメニュー。大きな赤い花はハイビスカス、黄色い花はゴールデンベル(スイセン)、ピンク色の花は南国でよく見られるティパニエ(プルメリア)。
写真に映る花々は、自然がつねに暮らしの近くにあることを表わしています。食卓を花で飾るのは、島ではごく自然な習慣。そして、テーブルにはバナナの葉を敷きます。島ではバナナの葉をお皿のように使うのが一般的で、魚料理や肉のグリルなどもバナナ葉の上に盛りつけられます。
それでは、料理それぞれについてご紹介します。
- カペ(Kape, タロイモのミルク):ラパヌイの朝食で特に代表的なのが、タロイモ(カペ)から作るミルク。太平洋地域で最も古く神聖とされる根菜・タロイモから作られる伝統的な飲み物。


(写真1枚目)カペ。(写真2枚目) 市販されている大きなタロイモ。
カペはとろみがあり、非常に栄養価が高く、温めて飲むのが一般的です(冷たい状態では飲みません)。
作り方は、まずタロイモの皮をむき、ゆでます。とけ出してくるでんぷんをこまめにとり除き、イモに火が通ったところで牛乳を加えます。煮たオートミールに食感が似ていて、やさしく、ほんのりとした甘味が感じられます。
カペは栄養価が高いという理由で、島では特に子どもたちに与えられてきた料理です。何世代にもわたってこの地で栽培され続けてきた大きなタロイモを使うのが特徴で、子どものころからこの味を楽しんでいる島の人にとって、カペは家族と大地とのつながりを感じさせる料理だといえるでしょう。
- オイオイ(Oi Oi rake rake, 家庭的な小さな焼き菓子):カペといえばつきものの料理で、小さなパンケーキのような一品。

伝統的な家庭では家族で分け合って食べたといわれる、素朴ながらも文化的な意味のある料理だとか。卵、砂糖、小麦粉、牛乳を混ぜた生地をフライパンでじっくり焼いてから、黄金色の小さなかけらに切り分けて食べます。そしてオイオイには、ジャムやコンデンスミルク、砂糖などを添えて食べるのが一般的。今回のオイオイはマンゴージャム添えです。
- ラパヌイ風カルパッチョ:島の代表的な魚である生のマグロ(ラパヌイ風)を使った料理。

採れたてのマグロをさばいて、レモン、塩、ケッパー、パルメザンチーズを添えて食べます。 色鮮やかでつい手を伸ばしたくなるこの料理ですが、特別な名前はないそうです。すべてに名前をつけなくてもいい、そんなおおらかな島の感覚が表われているのかもしれません。
- ポエ(Poe, 甘くも塩味にもできる伝統料理):こちらもラパヌイの代表的な料理で、かぼちゃ、バナナまたはマンディオカ(キャッサバ)を用いて作る。

特にバナナを使ったポエは、チリ本土で「コレヒアル(colegial)」と呼ばれるパンプディングに似ています。ポエは、甘くもしょっぱくもできる島の伝統的な料理ですが、今回は黒バナナ、小麦粉、牛乳、油、砂糖を使って甘く作られ、やわらかく満足感のある仕上がりでした。
今あるものを食べる。自然とともに生きる食生活の知恵
ここまで読んで、「ラパヌイの人は朝からこんなにたくさん食べるのか」と感じたかたもいるかもしれません。チリ本土では「朝食・昼食・オンセ(軽食)・夕食」というように食事は1日に4回。しかし、ラパヌイではそのような区切りは存在しません。
ラパヌイの生活リズムはすべて「働く時間」を基準に組み立てられてきました。食事の時間はどれも「hora key(食べる時間)」と呼ばれます。決まった時刻や献立があるわけではなく、そのとき手に入るもの、用意できるものを食べる、という考え方です。
そのため、朝に魚や肉の炭火焼きを食べることもあれば、夜に果物だけを口にすることもあります。ラパヌイの食事は「何時になにを食べるか」ではなく、「今、なにがあるか」「体がなにを必要としているか」によって決まるのです。
ブロさんに島で好きな食べ物・飲み物はなにかと聞いてみると、仕事を終えたあとに飲む「マラクチェラーダ」というビールカクテル(塩、レモン、パッションフルーツ)と、セビーチェ・エンパナーダ(冷たいマグロのセビーチェを生地で包んで揚げたもの)とのこと。どちらも古くからある伝統食ではありませんが、今のラパヌイの暮らしを映す、身近で愛されている食べ物です。
このように、食文化が魅力的かつ不思議な印象を与えるイースター島(ラパヌイ)ですが、日本とまったく関係がないわけではありません。
モアイがつなぐ、チリと日本の交流の歴史
イースター島と日本は遠く離れていますが、じつは歴史的にも文化的にも深いつながりがあります。
まず、両者とも島国であり、海に囲まれた生活と、自然との共生という共通点があります。また、どちらも地震の多い地域でもあります。
日本は過去に、チリの大地震のあと、モアイ像の修復や再建のための技術協力を行ない、モアイを持ち上げるための機械も寄贈しました。一方、ラパヌイの人々も、日本の大災害のあと、友情と連帯の証として、日本へモアイ像を寄贈しました。そのため、近年では、日本各地でモアイに出合うことができます(くわしくは外務省の記事「モアイが結ぶイースター島と日本の絆」参照)。
このように、遠く離れていても、両者は文化、協力、そして自然への敬意を通して結ばれています。
朝ごはんから学んだ、ラパヌイの精神
筆者は2012年にチリ本土でブロさんと出会いました。チリの国民的スポーツであるサッカーをブロさんの家で観戦するという会があったとき、知り合いの知り合いということで快く招待してしたのがきっかけです。そのときは、のちにこのような形でイースター島の朝ごはんを通じて再びつながるとは思いませんでした。
そして、筆者のラパヌイとの縁は、もう少し前に始まっていました。
2009年、イースター島へ一人旅に出かけたとき、飛行機で隣り合わせたのがラパヌイのかたでした。そして、見ず知らずの私を数日間、彼の自宅に快く泊めてくれたのです。
その滞在中、伝統的なラパヌイの祭りに参加しました。彼自身が民族特有の模様のペイントを施され、祭りに参加する様子を間近で見ることができました。ラパヌイの文化では、「友人は家族」です。この経験は、島の温かさと文化の深さを私に強く印象づけました。
その後、私がチリ本土に住むことになり、2014年には島を再訪しました。そして、その帰路の飛行機でラパヌイの彼と偶然、再会したのです。運命を感じざるをえませんでした。


ペイント

その後、私はこの朝ごはんの連載企画を担うこととなりました。そして、チリの知人であるブロさんがイースター島に移住したことを聞き、この朝食の企画をオファー。快く引き受けてもらえたことで、この記事が実現しました。
ブロさんに私のラパヌイの友人とのエピソードを話して写真を見せ、じつは彼の連絡先を知らないという話をしたところ、「まだ島で見たことがない人だけど、ぼくが見つけて、またつなげてあげるよ」といってくれました。かつて、チリ本土でまだ友人がいなかった私をサッカー観戦に誘ってくれたブロさんらしいと思いましたが、彼自身、イースター島に移住してからたくさんの人との出会いに恵まれたそうです。そんなブロさんが送ってきてくれた「モアイの前で撮った写真(以下)」を目にしたとき、2009年に初めてイースター島を訪問してから今日までの思い出が、次々によみがえってきました。
世界の朝ごはんめぐりを通して、国を超えたやさしさと友情、そしてラパヌイの精神と再会できたことをとてもうれしく感じています。

自然と歴史を見守るモアイ像(2009年)




2025年、日本のクレーンで立て直されたモアイ像たちとブロさん。
この島のいたるところに、不思議な魅力が息づいています。
人々の暮らしの中に、信仰に、習慣に、食べ物に、そして世界を見つめるモアイの「まなざし」に——ラパヌイには、言葉にし尽くせない魅力が確かに宿っています。こうしてラパヌイの朝ごはんとつながったこと自体も、何かの「縁」や「巡り合わせ」なのかもしれません。
次回はどの国の朝ごはんが登場するのか、どうぞお楽しみに!
<ブロさんのSNS>
インスタグラム:@bro.derik
Tik Tok: bro_derik
Facebook: Bro Callejas

| 岡本啓史 おかもとひろし🟡国際教育家、生涯学習者、パフォーマー 世界5大陸で暮らし、国連やJICAを通じて50カ国以上で教育支援に携わる。ダンサー、俳優、星付きレストランのシェフ、教師など多彩な経歴を持つ。 異文化で学び続けた海外18年を経て、2024年に帰国し、神戸でグローバル学び舎3L-ミエルを設立。「多様性と幅広い学び」を次世代へつなぐことを使命に、教育、食文化からウェルビーイングなど幅広いテーマで講演・研修・執筆を行う。5言語で学びに関するブログでゆるく発信中。徳島文理大学特任教授。日本SEL学会理事。 著書『なりたい自分との出会い方』(岩波書店)『せかいのあいさつ』全3巻(童心社)監修。 サイト/SNS:https://linktr.ee/mdhiro |
