歴史と活気が共存する国、カンボジア
カンボジアについて、どんなことを知っていますか? カンボジアは東南アジアに位置し、豊かな歴史と活気ある文化、そして植民地時代や内戦・紛争という困難を乗り越えてきた強さをあわせ持つ国です。
地理的・文化的にも日本とカンボジアは比較的近いため、これまで紹介してきたリベリアやチリ・イースター島、北マケドニアなどと比べると、より身近に感じられる国かもしれません(これまでの18記事もぜひご覧ください)。

世界最大級の宗教建築の1つであるアンコール・ワットを有するカンボジアは、古代の伝統と急速に発展する現代社会が共存する国です。
にぎやかなローカルマーケットから、穏やかな農村風景まで、日々の暮らしはコミュニティ・食・家族と深く結びついています。
「朝ごはんから、その国の暮らしが少し見えてくる」この「世界の朝ごはんめぐり」連載。カンボジアで愛されている朝ごはんの一例を通して、その文化に触れてみましょう。

メイさんの朝ごはん|カンボジア系アメリカ人が教えてくれた伝統の味
今回は、現在カンボジアに住むカンボジア系アメリカ人のメイさんを紹介します。
彼女はビジネスやサプライチェーンマネジメント分野での経歴があり、現在は英語講師として活動しています。異文化を探求し、世界じゅうの人々とつながることをたいせつにしています。
また、彼女はつねにまわりの人を思いやる優しさを持ちながら、必要なときにはしっかりと自分の意見を伝える強さもあわせ持ち、まさにカンボジアとアメリカ、両方の文化のよさを体現している人です。明るく温かい人柄と素敵な笑顔が印象的です。

それでは、メイさんの朝ごはんをのぞいてみましょう。
ノンバンチョックとは?——カンボジアを代表する発酵米麺の朝食
今回ご紹介する「ノンバンチョック・ソムロークメール」は、一般的に「ノンバンチョック」と呼ばれる、カンボジアを代表する料理の1つです。発酵させた米麺(ライスヌードル)に、香り豊かな緑色のスープ(魚ベース)をかけて食べる料理で、特に朝食として親しまれています。

黄色のスープには、レモングラス、ターメリック、フィンガールート、ガランガル、コブミカンの葉、にんにく、ココナッツミルク、プラホック(カンボジアの発酵魚ペースト)、淡水魚などが使われ、複雑で奥行きのある味わいが生まれます。
このクリーミーで香り高いスープを米麺にかけ、もやし、いんげん、きゅうり、バナナの花、蓮の茎、そして「セスバニア・ジャバニカ(Sesbania javanica)」と呼ばれる食用の黄色い花など、色とりどりの野菜をトッピングします。仕上げにライムを搾り、ミントやとうがらしを加えることで、味にアクセントが加わります。
一口ごとに、甘味・塩味・酸味・辛味・うま味が調和し、カンボジア料理の魅力がぎっしり詰まっています。
この料理は、朝早くから屋台で売られており、人々の日常に深く根づいた一品でもあります。




難民としてアメリカへ渡った母親が作り続けた味
メイさんにとって、ノンバンチョックは単なる朝ごはんではありません。アメリカ合衆国で育った彼女にとって、この料理は「母の味」でもあります。
メイさんの母親は、クメール・ルージュ政権からの難民として家族で母国を出ました。アメリカに移住してからも、月に一度はかならずこの料理を家族7人のために作ってくれていたそうです。
手間も時間もかかる料理ですが、だからこそ特別な存在でした。
「これは愛そのものなのです。お母さんがこの料理を作る日は、朝食だけでなく、昼も夜も同じなべを囲む特別な一日でした。」とメイさんは語ります。

カンボジアでは市場で買える「ノンバンチョック」
現在、家族とともにカンボジアで暮らすメイさんにとって、この料理はまた違った形で口にできる機会があります。
ノンバンチョックは調理に手間がかかりますが、地元の市場では1人前が約1ドル(約150円)と手ごろな価格で販売されているため、買って食べるのが一般的になっています。
子育て中で忙しいメイさんも、手軽に懐かしい味を楽しめるというわけです。

紙幣に日本の⚪︎⚪︎が? カンボジアと日本の意外なつながり
東南アジアの国として距離は近くても、意外と知られていない日本とのつながりがあります
以下の紙幣の写真をよく見てみてください。どんなつながりがあると思いますか?

ヒントは、写真の右下にあります。
このカンボジアの500リエル紙幣(約15〜20円)には、なんと日本の国旗が描かれています。そこに描かれている橋は「つばさ橋」(左)と「きずな橋」(右)と呼ばれ、日本の政府開発援助(ODA)によって建設されたものです。
この2の橋は、ホーチミン、プノンペン、バンコクといった都市をつなぐ広域ネットワークの一部として、人や物の移動を支え、経済発展に貢献しています。そして同時に、食文化を支える食材の流通にもかかわっています。
ただ、これらの橋はモノをつなぐ単なるインフラではなく、相互の信頼と友情をつなぐ象徴でもあります。カンボジアでは、日本人はとても温かく迎えられる存在であり、メイさんによると、日本人の夫が自分の出身国をいうと、多くの人が笑顔で話しかけてくれるそうです。
カンボジア支援で作られた橋だけでなく、日本が手がけたものは壊れにくく高品質であるという印象を持たれています。さらに現地での人材育成を通して「持続性」を意識したかかわりがあることから、同じアジアの国としてカンボジアの人々から厚い信頼を得ているようです。
もしもカンボジアを訪れる機会があれば、ぜひ紙幣に描かれた日本の国旗を探してみてください。そして、今回ご紹介したノンバンチョックを食べるときには、「この料理は日本で紹介されていました」と伝え、支払いには日章旗がついた500リエル紙幣を使ってみてください。(もちろん、おなかいっぱい食べるにはこの紙幣1枚では足りませんが……)。
出会いはモザンビーク。食でつながった私たち
メイさんとのつながりはアフリカがきっかけでした。2022年に私たち家族がモザンビークに移住したとき、メイさんとそのご家族に出会いました。
カンボジア、アメリカ、チリ、日本——国籍はそれぞれ異なるものの、アフリカの地で、私たちは食や文化、経験を通してすぐに打ちとけました。いっしょに料理をしたり、マラソンに参加したり、さまざまな時間を共有しましたが、そのつながりの中心にあるのは、やはり「食」でした。
2024年にそれぞれの家族がモザンビークを離れたあとも、世界の異なる場所にいながら、こうしてつながり続けています。

食は空腹を満たすだけの単なる食べ物ではありません。
それは大事な記憶を呼び起こすものであり、アイデンティティであり、人と人をつなぐものです。
次はどんな朝ごはんと、どんな物語に出合えるでしょうか?
次回の「世界の朝ごはんめぐり」もお楽しみに。